Kaede

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(写真:tockImageFactory.com / shutterstock

「ご近所付き合い」を支えるデジタルサービス

都市の急発展に伴いデジタル化も急速に進んでいるインドのバンガロールでは、ご近所づきあいもテクノロジーによって支えられている。現代のインドのデジタル化事情を、その背景とともにバンガロール在住の著者に伝えてもらう。

Updated by Kaede on September, 17, 2024, 5:00 am JST

「うちのマンションの入り口に着いたら、このQRコードを見せてね。私の方のアプリで承認するから」

インドに住んでいると、頻繁にインド人の友人や同僚の家に招待される。インド都市部の大型高層マンションに住む友人の家を訪問すると警備員が常駐しており、最近はどのマンションでもアプリを用いて入館手続きを行う。以前は、訪問者の名前と連絡先をノートに書き、警備員が居住者に電話する、という流れだったが、アプリのおかげで手続きがかなりスムーズになった。インド都市部の中間層や富裕層が住む大型マンションでは、このような入館管理からマンション内のコミュニティ活動まで、アプリが大活躍している。今回は、インド都市部の住宅事情と、「ご近所付き合い」を支えるデジタルサービスについてシェアしていく。

インドの都市部に林立するタワーマンション

(画像:Dana.S / shutterstock

2023年に、中国を抜いて世界人口1位となったインド。現在でも人口の約7割は農村部に暮らしている一方で、都市部への人口流入、人口集中も著しい。インドの都市部では、中心部から郊外まで、高層、大型マンションが次々と増え、中間層や富裕層にとって一般的な住宅となっている。こうした大型マンションは「Gated Apartment」または「Gated Community」と言われる集合住宅で、複数棟のタワーマンションが壁や境界の壁やフェンスで囲まれ、入口は常駐の警備員によって出入りが常に管理されている。敷地内には、居住者用の様々な施設(スポーツジム、プール、体育館、集会場、公園、食料品店、クリーニング店など)が揃い、居住者は入居期間中に一定の管理費用を支払うことで、こうした施設を利用できる。利便性から、大型ショッピングモールに併設するかたちで開発されたマンションもある。「マンション」「集合住宅」というよりも、「マンション複合施設」という方がイメージしやすいかもしれない。筆者の住むバンガロールでも、中間層や富裕層の多くがこうした大型マンションに居住している。

住人は「マイクロ・シティ」に住んでいる

(画像:Kev Gregory / shutterstock

筆者が住んでいるバンガロールは、「インドのシリコンバレー」と言われ、アジアで最も早く成長している都市のひとつであるが、人口の急激な流入に対して都市開発が十分に進んでおらず、交通渋滞が深刻な課題となっている。バンガロールは、以前は「ガーデン・シティ」と言われ、緑豊かな地方都市のひとつだったという。それが今となっては、IT都市となり、インド各地から人口が流入し、ニューヨークと同じ規模(約800平方キロメートル)にまで拡大した。(※1)

バンガロールやインドの多くの都市では、都市内での「マイクロ・シティ」化が進む。渋滞によって「移動にかかる時間、コスト」が大きすぎることを背景に、都市部内の各エリア(2~3km圏内)の中だけで、基本的な社会生活基盤(学校、病院、食料品、モール、レストラン街など)が揃っており、自分の生活圏は居住区の中だけで完結する、居住エリアから出ないという人が多い。それぞれの「マイクロ・シティ」で人々の生活が完結するように、公共施設や商業施設が出来上がっていく。

そして、先に述べた、インド都市部にある「複合型施設」のような大型マンションは、「マイクロ・シティ」より、さらに「マイクロ」な生活圏である。マンション内で生活必需サービスが揃い、インドの都市部ではデリバリーサービスも発達しているので、居住者はマンションの中から一歩も出ずに、食料品の買い物からジム通い、運動など、あらゆる生活ニーズを満たせる。筆者の周りでも、インド都市部の大型マンションに住む人からは、在宅勤務の日や週末は、マンションの敷地内から一歩も出ない、マンションの外に出るのは週に数回だけ、という声も多く聞く。

バンガロールにある大型マンション Prestige Shantiniketan には、居住者用の大きなプールが併設されている。大型マンションの敷地内で時間を過ごす人が多いので、マンション内のコミュニティのつながりも強くなり、マンション住民を対象にしたデジタルサービスも増えている。Nestawayのページでその設備を確認できるので、ぜひ見ていただきたい。

すべてが「ご近所」にあるから、近隣住民との結びつきが強くなる

そのようなインド都市部の大型マンションでは、マンション住人の「ご近所付き合い」が活発だ。週末も含め、普段の生活圏内がマンション内なので、自然に居住者同士の交流や結びつきも強くなる。

マンション内にあるスポーツアリーナやスタジオでは、ヨガやズンバなどのクラスから、フリーマーケットなどのイベントまで頻繁に開催される。居住者が家族イベント(子どもの誕生日パーティーや、ベイビーシャワー(出産祝い)など)を、マンション敷地内の集会場で行い、近隣住人を招待することも多い。

その他にも、居住者が引越しなどの際、不要な家具をマンション内で売買することも多い。大型マンションとなると数百世帯にものぼる居住者が住んでいることもあり、所得水準や家族構成も似ているので、家具が売買しやすいのだろう。

インドの都市部ではインドの各地域から移住してきた人々が多いが、インドは州や地域によって言語や習慣が異なり、国が違うくらいの差がある。大型マンションの中では、タミル人、ベンガル人、といったように同じ出身地域の世帯家族同士で集まり、地域特有の行事を行うこともあるようだ。

住宅管理アプリで、セキュリティ管理もメイドのマッチングも

インド都市部での大型マンション開発が進み需要が高まる中で、マンションの安全管理や居住者の生活を支えるサービスを提供するスタートアップも増えている。

その代表格が「Mygate」だ。「Mygate」は、2016年に創業したバンガロール発のスタートアップ「Vivish Technologies」が提供する、マンション管理アプリ・サービスである。2024年現在、インド国内27都市、25,000件以上のマンションで利用されており、インド国内で最も普及しているマンション管理アプリである。2016年のサービスローンチ当初、主に大型マンションの入館セキュリティ管理サービスを提供していた。

アプリの仕組みはこうだ。インドの大型マンションでは、入口に警備員が常駐し、人や車の出入りを管理している。マンション居住者は、訪問者の登録を「Mygate」アプリで行い、訪問者に QRコードや暗証番号を送る。訪問者がマンションに着くと、入口でQRコードをかざす、または暗証番号を入力することで認証を行い、マンション敷地内に入れる仕組みになっている。ビジターだけでなく、デリバリー配達員の入館も同様にアプリ上で承認し、配達員がマンション敷地内に入り、玄関前まで来られるようになっている。「Mygate」アプリが浸透する前は、入出管理は紙ベース、台帳に記載して管理していたが、セキュリティ上の課題もあり、また都度電話で確認することも煩雑だった。「Mygate」によるセキュリティ管理が導入されることで、ワンタップでマンションに入館でき、入出館管理のデータも追跡できるようになった。

「Mygate」では、当初の入館セキュリティ管理に加え、現在では200以上もの多様なサービスを提供している。例えば、「マンションの空室検索、売買、賃貸」「賃貸契約の締結」「家賃支払い」「駐車場の管理」「居住者のクレーム管理」「居住者間での家具の売買」など、マンションの居住者、管理者にとって役立つあらゆるサービスを「トータルソリューション」として提供している。

「Mygate」アプリのサービスでインドならではなのが、家事手伝いのメイドを探せるサービスである。インドのミドルクラス以上の家庭では、家事手伝い、調理を任せるメイドを雇うことが一般的である。マンションに引っ越してきたばかりの居住者にとっては、自分の家に毎日出入りするメイドは、信頼できて仕事ができることが必須である。同じマンション内でメイドを雇う隣人からの評判は非常に有益だ。また、雇用されるメイドにとっても、同じマンション内で複数の働き先が見つかり、居住者、メイド、両方にとってメリットがあるマッチングサービスだ。

Mygate のアプリ画面。(左)マンション入館管理、(中央)メイドマッチング、(右)マンションの家賃支払など、様々なサービスが同じアプリ上で操作できて便利である。(著者提供)

WhatsAppでご近所づきあい

インドの集合住宅では居住者のコミュニティも強く、居住者の「WhatsApp」グループも多くある。日本のLINEアプリのように、インドではWhatsAppが主にチャットアプリとして利用されている。

チャットグループ内では、マンション内での催し事(ヨガ教室やバザーなど)を告知したり、家族のイベントに招待したり、情報交換やマンション内でのトラブルについて意見交換しあったり、常に活発にやりとりされる。

日本の都市部では、マンション内の隣人同士では面識はないことも当たり前になっている。インドでは、コミュニティの結びつきが強く、社会基盤になっており、都市部でも「ご近所付き合い」は活発で、互いに助け合う関係性にある。上記に紹介したアプリ・サービスは、そうしたコミュニティづくりの基盤になっており、インドの人々は、デジタルをうまく活用しながら、アナログな「ご近所付き合い」をして、相互扶助の関係性を築いているのだろう。

参考文献
※1 Bengaluru unplugs to microcities: How good are they?
15-minute neighbourhood, potential solution to Bengaluru’s infrastructure woes, to be piloted in Nallurhalli | Bangalore News – The Indian Express
Consumption in gated communities in India poised to grow 2.5 times to touch $500 billion in five years: Report
All You Need to Know About Gated Community
220+ Features of Mygate