――そもそも、人的資本情報とはどういうものなのでしょうか?
松葉 人的資本情報とは従業員が持つスキルや知識、経験などを資本として捉え、その価値や活用状況に関する情報の総称です。このなかには、スキルや経験に加えて、有給取得率や残業時間、従業員数や離職率、女性管理職比率など、さまざまなデータ指標が含まれています。これらはかつては「人的資源」という言葉で表されていましたが、今は「人的資本」と呼ばれるようになりました。
――「人的資源」から「人的資本」へと変わった理由は何でしょうか?
松葉 かつて人的資源は「コスト」として捉えられていたんです。しかし今では、将来的な価値向上を目指す「投資の対象」と見なされるようになりました。特に、欧米では無形資産への投資が重視されており、人的資本の可視化が義務付けられています。これらが企業価値の評価において重要な役割を果たしているため、日本でも同様の流れが進んでいます。
――スキルや経験はどのように測定するのでしょうか?
松葉 スキルの測定は確かに難しいですが、企業内でスキル管理システムを導入し、スキルのレベルを可視化することができます。スキルマトリックスを開示する企業も増えてき ています。
測定や開示には手間やコストがかかりますが、従業員の成長や生産性向上を促すために、また企業の持続的な成長や競争力の強化のために、人的資本の測定や開示は不可欠です。
―― jinjer株式会社の調査では、測定や開示に取り組んでいる企業は36.9%ですが、この数字についてどう思われますか?
松葉 日本は有価証券報告書を発行する企業約4,000社のみ測定や開示が義務付けられているので、この数字自体は妥当だといえます。ただし、同じくらいの割合で「取り組む予定がない」や「わからない」という企業が存在することに驚きました。おそらく義務化の対象外であることや、測定の価値を感じていないこと、システムの整備ができていないことが主な理由だと考えられます。
――開示が義務化されていない中小企業でも測定は意味があると思いますか?
松葉 はい、もちろん意味があります。スタートアップ企業がHR決算資料を開示する事例も増えていますよ。開示によって求職者に対して企業の透明性を高めることもできます。
―― 測定や開示にコストをかけられない企業に対して、何か提案はありますか?
松葉 まずは人事関連システムを見直すことが重要です。効率的な運用ができれば、人的資本の可視化に必要な要素を自動的に収集・可視化できるようになります。
―― ありがとうございました。