森本 裕子

森本 裕子

(写真:ViDI Studio / shutterstock

ダサいTシャツは格好いいTシャツの3倍記憶に残る

データで見えてくる人の心の動き。今回は「スポットライト効果」について紹介します。あんな失敗もこんな成功も、実は多くの人が記憶していません。

Updated by Yuko Morimoto on May, 10, 2024, 5:00 am JST

ダサいシャツを着ていたとしても……

想像してください。暑い夏の休日の朝、ぼんやりと考えごとをしていて、そのまま適当に服を着て、カバンを持って家を出ました。暑いので上着は着てきませんでした。外に出てからしばらくして、ふと胸元に目を向けたら、家着にしているダサいシャツを間違えて着てきてしまっていることに気づきます(仮に、親世代ですごく流行ったけれど今は廃れてしまった歌手の顔写真がデカデカとプリントされているシャツくらいダサいということにしましょう)。

こういう場合、気づいた瞬間に急激に恥ずかしくなり、なんだか周りの人たちも自分をジロジロ見ては「あの人ダサいシャツだなぁ」と考えているような気がしてきます。でも、それは本当でしょうか。シャツをダサいだなんて評価していないかもしれませんし、なんなら単に視線がこっちに向いただけで、周りの人はあなたのシャツには気づいてすらいないかもしれません。

これを実際に調べたのが、コーネル大学のギロビッチ氏らです。若者世代からは非常にダサいと考えられていた歌手バリー・マーロウの顔写真が21cm×24cmの大きさで胸元にプリントされたTシャツを大学生の参加者に着せ、他の大学生たち2人から6人が待機している実験室に入らせます。しばらくして、Tシャツを着た参加者は部屋から出され、「部屋にいた人たちはどのくらいあなたのTシャツに気づいたと思いますか?」と尋ねられます。

このとき、参加者は、自分のダサいTシャツに気づいたのは平均46%だろうと推定するのですが、部屋にいた他の参加者たちのうち、実際にTシャツがバリー・マーロウだったと気づいたのはわずか23%だったのでした※1。つまり、あなたがダサいTシャツを着ていても、それに気づいているのはあなたの思っている半分くらいだ、と言えるかもしれません。

ところで、ダサいTシャツではなく、格好いいTシャツならどうでしょうか。ギロビッチ氏は、研究が発表された2000年当時に人気のあった有名人(ボブ・マーリー、ジェリー・サインフェルド、マーティン・ルーサー・キングJr)の顔写真がプリントされたTシャツで、同じ実験をしています。

格好いいシャツはもっと見られていない!

格好いいTシャツを着た参加者は、ダサいTシャツを着た参加者と同じくらい、他の人は自分のTシャツの人物に気づくだろうと考えるのですが、格好いいTシャツの人物が実際に特定されたのは、参加者の予想のわずか6分の1でした。ギロビッチ氏はここで「なるほどこの効果は信頼できますね」と考察しているわけですが、私はこう言いたい。ダサいTシャツ、格好いいTシャツの3倍の勢いで気づかれていません!?

ダサいシャツを着てきてしまったらやはり一度家に帰って着替えるべきなのだろうかとは思いつつ、しかしまあ、ギロビッチ氏が言う通り「自分が思ったほど、良くも悪くも周りには気にされていない」というのは大事な話です。気づかれるとはいっても、思っているもののわずか半分。気にせずにいきましょう。

さらにギロビッチ氏は、自分の見た目だけではなく、グループディスカッションで自分がどのくらい目立ったかという行動面でも、やはり参加者は自分の目立ち具合を(いい意味でも悪い意味でも)過剰に見積もってしまうようだという結果を報告しています。この、実際にそうであるよりも自分が目立っているように感じてしまう現象は「スポットライト効果」と呼ばれています。

社会的評価は思ったより落ちない

さて、このスポットライト効果の影響をさらに発展させた実験で確認したのが、ウィリアム大学のサビツキー氏らの研究グループです。この研究グループには、ギロビッチ氏も参加していました。サビツキー氏は、私たちは人前で失敗をすると、スポットライト効果のせいで、その失敗を実際よりも大きな失敗だったと思ってしまうのではないか、と考えました※2。

ではちょっと想像してみてください。もしあなたが次のような失敗をしたとして、周りの人たちはどのくらい厳しくあなたのことを評価すると思いますか。図書館を出ようとしたら間違ってアラートシステムを起動してしまい、周りにジロジロみられながらスタッフに連れられて受付カウンターまで連れて行かれ、すぐに数人のスタッフに周りを囲まれ、図書館を出ないように見張られてしまった。いかがでしょう。また、パーティ主催者へギフトを持ってきていないのが自分だけだった、という場面ではどうでしょう?

図書館シナリオで、自分が「やらかした」人物だと想像させられた参加者が、「自分は本を盗んだと思われるのでは」と危惧する程度は、10段階で4.8でした。半々くらいの心配度でしょうか。一方、やらかした人を目撃した人物だと想像させられた参加者が、「その人は本を盗んだんだろうな」と考える程度は、10段階で3.0。つまり、それほど厳しくは見られていないという結果だったのです。

ちなみに自分だけギフトを忘れたパーティシナリオでは、忘れた側で想像すると「これは主催者を不快にさせたし自分の印象も悪くなったのでは」と10段階の5.3くらいの強さで考えるのですが、主催者側でギフトを1人だけ持ってこなかった人への「不快だし印象悪いな」という程度は10段階の2.5程度だったそうです。気まずい場面でも、意外に相手は気にしていないのかも、というわけですね。

サビツキー氏は、シナリオではなく現実場面でも、同じ効果があるかを検討しています。難しい課題に失敗したところを他の人に見られる、とか、恥ずかしい自分の自己紹介文を知らない人に見られる、というような状況にさらされると、参加者は「ああこれで自分の評価は大きく下がっただろう」と予測するのですが、実際には参加者が恐れるほどには評価は低下しませんでした。

気にしているのは自分ばかり

さて、気まずい状況でも実はなんとかなりそうだという研究を見てきました(ダサいTシャツは格好いいTシャツの3倍気づかれますが)。しかしここまでの研究は、ほとんどが知らない人相手に見られたときの話です。友だちの誘いを断ったり、同僚からきた仕事のメールへの返信が遅れたりしたとき、私たちの評価はどうなるのでしょうか。

友だちの誘いを断っても、思っているよりは友情にヒビが入らないよという研究結果を報告したのは、ウェストバージニア大学のジヴィ氏らです※3。LINEで友だちから、週末に一緒に美術館に行かないか、とか、土曜日に有名なシェフのいるレストランに行かないか、と誘われたとして、あなたは断れるでしょうか。もし「家でゴロゴロしてたいから行けない」と断ったとしたら、相手はどのくらい怒ったりがっかりしたりして、もうお前なんか誘ってやらないとか、次にお前から誘われても行ってやらないと考えるでしょうか。

研究結果からは、やはり誘われた方は、断ったときの友情へのヒビの入り方を過剰に見積もっていることが示されました。ただし、もちろん友だち視点からでも、少しは腹が立ったり、多少はもう誘ってやんないもんねと思ったりはするようです。重要なのは、「断ったほうが思っているよりは」友情が損なわれないということです。

「返信は急ぎません」が相手のストレスを軽減する

同僚からの仕事のメールへの返信が遅れることについても、私たちは過剰に恐れすぎているのだという研究があります※4。ちなみに論文のタイトルは「すぐ返信しなくていいから!」。力強いメッセージですが、なぜこのタイトルなのかはもうちょっと下まで読んでもらえればわかります。

同僚から仕事のメールがきたとき、私たちは同僚が急ぎで返事を必要としていると考え、業務時間内はもちろん、時間外に送信されたメールだったとしてもすぐに返信しようと思ってしまいます。そして、本当は送信者はそんなに急いでいないのに、慌てて返事をして、という傾向が強い人ほど、ストレスが大きくて幸福感が低いようです。

これまで時間外にもメールを送っていたぞ、しまったどうしようと思われた方、大丈夫です。今後は、文末に「急ぎじゃないから返事は都合のいいときでいいよ」と書いてください。そんなことは内容を読めば伝わるじゃないかと思われるかもしれませんが、これが全然伝わらないのです。

同じメール内容でも、文末に明示的に「急がない」旨が書かれたメールを読んだ人は、メールの送信者が想定したのと同じくらいの返信スピードでいいんだなと推測することができ、その分、ストレスも軽減されていたのです。同僚の健康のために、ぜひ一文を付け加えてあげてくださいね。

ここまで読んで面白いなぁと思われた方は、ぜひSNSなどで拡散をお願いいたします。なお、急ぎではありませんので、実行はご都合のよいときで構いません。

参考文献
※1. Gilovich, T. , Medvec, V. H. & Savitsky, K. The spotlight effect in social judgment: an egocentric bias in estimates of the salience of one’s own actions and appearance. J. Pers. Soc. Psychol. 78, 211–222 (2000).
※2. Savitsky, K. , Epley, N. & Gilovich, T. Do others judge us as harshly as we think? Overestimating the impact of our failures, shortcomings,and mishaps. J. Pers. Soc. Psychol. 81, 44–56 (2001).
※3. Givi, J. & Kirk, C. P. Saying no: The negative ramifications from invitation declines are less severe than we think. J. Pers. Soc. Psychol. (2023) doi:10.1037/pspi0000443.
※4. Giurge, L. M. & Bohns, V. K. You don’t need to answer right away! Receivers overestimate how quickly senders expect responses to non-urgent work emails. Organ. Behav. Hum. Decis. Process. 167, 114–128 (2021).