薄井研二

薄井研二

(写真:Toey Andante / shutterstock

先行指標が含む「空回り」のリスク。遅れてやってくる指標の利点を見落とすな

サービスを提供しはじめて間もない事業ほど「先を見据えられる」と先行指標に飛びつきがちだ。しかし、そこには「空回り」のリスクがある。過去を照らし出す遅行指標を活用しよう。

Updated by Kenji Usui on April, 4, 2024, 5:00 am JST

先行指標か、遅行指標か

データ分析の現場ではさまざまな指標が使われていますが、その指標が事象に対して先んじた数値なのか、それとも後から結果を説明している指標なのか、という違いを知っておくことは重要です。前者は先行指標、後者は遅行指標と呼ばれます。

先行指標と遅行指標にはどのようなものがあるのでしょうか?
例えば、SaaSのような月額課金サービスを提供している人がいるとします。将来のユーザ数を割り出したい場合に用いる指標はいくつもありますが、なかでも有用そうなのが、獲得しているリードの数と、顧客の離脱数です。このとき、前者が先行指標、後者は遅行指標です。

先行指標は将来おきうる事象を推測できる指標です。現在の活動から、将来に影響を与える要因を数値にしています。たとえば、リード数は将来ユーザになる見込み顧客のことであり予測に利用することができます。リード数に課金率を掛けることで獲得顧客数を見積もることができます。

遅行指標は過去の成果を測定した指標であり、すでに起きたことを示す数値です。遅行指標は結果であり、サービスの成功や失敗を評価するのに役立ちます。たとえば、顧客の離脱率はすでにサービスから離れてしまった顧客の割合です。これはサービスの成果を示す指標であり結果そのものです。例えその後サービスを改善したとしても、既に離脱した顧客の数は変わりません。

先行指標のもつ課題

では、先行指標と遅行指標のどちらが有用な指標でしょうか? 直感的には先行指標の方が役に立ちそうです。サービスからすでに離脱した顧客の数が分かっても、その顧客へアクションを取ることは簡単ではありません。しかし、リード顧客に対してはいくつかアプローチの方法がありそうです。

では指針を定めるときは、先行指標ばかりを頼りにしてもいいのでしょうか。なんとなくお気づきかもしれませんが、実は先行指標にはいくつか弱点があります。

先行指標がもつ弱点の1つは、先行指標を決めることが簡単ではないということです。遅行指標はいわば結果なので直感的に決めることができますが、先行指標はそこからカスタマージャーニーを遡ったりサービス上の行動を深堀りしたりするなどの調査が必要になります。ビジネスはさまざまな要因が同時に影響し合うため、有用な先行指標を特定することは簡単ではありません。特にサービスを立ち上げた初期はデータが不足しているため、どの指標が先行指標足りうるのか特定することは困難です。

2点目の問題は、先行指標は不確実性があることです。先ほど述べたように遅行指標は結果であり数値として不確実性はありません。離脱率は離脱という結果の値であり、ここに曖昧さや予測しない介入はありません。先行指標は現時点の状態から将来の値を推測することになるので正確な予測が原理的にできないのです。現在の見込み顧客数がわかっていたとして、ある程度の将来の獲得顧客数は予測できますが、実際にその値になるかどうかは誰にもわかりません。もしかしたら自分たちが知らないところで問題がおきて、推測値よりも大きく下がるかもしれません。そうでなくても、さまざまな要因によって上下にブレが発生することは容易に想像できるでしょう。

遅行指標の有用性

では、遅行指標はどうでしょうか?遅行指標は既に起きてしまったことから集計された値ですので、すでに起きてしまった問題そのものを解決することはできません。問題を特定する旅の出発点として有用です。離脱率を計測しても止めてしまったユーザそのものを復帰させることはできませんが、将来の離脱を回避するために用いることはできるのです。

遅行指標は結果そのものであるため、分かること、分からないことが明確です。先行指標には常に不確実性が含まれているため、分析が「空回り」になることもありますが、遅行指標にはそれがないために結果として早く改善サイクルを回すことが可能になります。

特に、立ち上げたばかりのサービスはデータが少ないため先行指標を探すことが困難だというのは先に述べたとおりです。それよりは、遅行指標から自分たちの明らかな課題を解決し、顧客を理解しながら徐々に先行指標を探索していく方が確実な一歩を踏み出すことができます。

先行指標と遅行指標の特徴を活かす

KPIはさまざまな側面から見ることが重要です。この考えは先行指標を用いるときにも遅行指標を用いるときにも変わりません。先行指標という不確実性をもった早期発見と、遅行指標という遅れて届く確実な報告のどちらも必要です。どちらか片方ではなく両方を上手く組み合わせることで、自分たちの意思決定をより良いものにすることができます。

自分たちが行った細かいアクションの効果は、先行指標が敏感に反応するため便利でしょう。施策の効果が遅行指標に現れるまで待つ必要がなく、次々と手を打つことができます。しかし、先行指標はあくまで予測でしかありません。最終的な成果は遅行指標を見ることによって正しく評価する必要があります。この先行指標を見ながら改善を行い、遅行指標で確認するというサイクルを回すことで、早く確実に改善を実施することができるようになります。

先行指標と遅行指標の両方をバランスよく活用することは、ビジネスの成功に不可欠です。先行指標は将来の業績や成果を予測する際の道標であり、遅行指標は過去の業績や成果を評価するための指標です。両方の指標をバランスよく組み合わせることで、ビジネスの現状をより深く理解し、効果的な戦略を立案し、実行することができるのです。