薄井研二

薄井研二

(写真:metamorworks / shutterstock

野心的な目標にフォーカスしながら、組織を健全に運営することは可能か

「大きな目標を達成するためには、数字に絡め取られてはならない。達成に必要なのはモチベーションだ」などと考えているとしたら、これは大きな誤解だ。定量的な評価も実際には野心的な目標を達成するために与する。指標とフレームワークを上手に使いこなそう。

Updated by Kenji Usui on March, 12, 2024, 5:00 am JST

定量的な評価が野心的な目標を阻害するという誤解

近年、ビジネスや組織の世界では定量的な目標管理が重要視されています。組織全体が一体となり、戦略的方向性を確保し成果を最大化することが可能となるためです。実際に組織やチームが成功するためには、明確な目標設定とそれに伴う定量的な成果測定が必要不可欠です。

一方で、定量的な評価に対する誤解は少なくありません。定量的な評価は野心的な目標の策定を妨げるとか、数値で表現できる目標しか設定できないのではないかと思い込んでいる人がいるのです。定性的な目標は定性的にしか評価できず、定量的な評価をするには定量的な目標を設定するしかないーー、これらは全くの誤解です。

定量的な評価指標を用いながら、野心的で定性的な目標を設定することは可能です。それを実現するためのフレームワークはOKRと呼ばれます。ここではOKRとKPIの関係を説明しながら、野心的な目標を定量的に評価する方法を解説していきましょう。

メンバーが共通のゴールへ向かって協力するための枠組み「OKR」

まずはOKRについて簡単に解説しましょう。OKRとはObjectives and Key Resultsの略称で組織やチームが目標を効率的に達成するためのフレームワークです。組織の方向性を明確に示し、目標に向かってチームが一体となって動くためのツールになります。

Objectives(目標)とは、組織やチームが達成したい具体的な目標や方向性を示すものです。これらの目標はビジョンや目的を示し、チームメンバーに組織の方向性とその意義を明らかにします。思い切って高いレベルのObjectivesを設定してみましょう。

Key Results(成果指標)はその目標の達成を評価するマイルストーンです。Key Resultsは目標達成の進捗状況や成功度を測定するための指標であり、基本的に数値によって表現されます。これらの成果指標は、目標達成度を客観的に評価し、チームが目標に向かって前進するための進捗度を定量的に把握します。

OKRは組織やチームの目標を明確にし、透明性を高くしフォーカスを絞ることによってチームメンバーが共通の目標に向かって協力するための枠組みです。「70%の達成ができれば成功」といえるようなストレッチゴールを設定することで、野心的な目標をもちながら定量的な評価を兼ね備え、客観的で明確なマイルストーンをもつことができます。つまり、定性的な目標をもちながら定量的な方法で効果を検証することは可能ですし、定量的な評価をしながら野心的な目標を策定することもできます。野心的な目標と定量的な評価は相反するものではないのです。

お互いに補い合うOKRとKPI

(写真:Vitalii Vodolazskyi / shutterstock

次はOKRとKPIの関係について考えてみましょう。わたしの知る範囲ですが、少なくない人たちがOKRとKPIについて間違った認識をもっています。OKRを導入するためにKPIは必要ないとか、逆にKPIがあるならOKRはいらないとか、OKRは難しいからKPIがあれば十分だという人もいます。このような認識はあまり正しいとはいえません。

KPIは組織やプロジェクトの目標と直接関連し、定量的かつ適切な頻度で測定が可能なものでなければなりません。また、チームや組織全体で理解され可視化されやすく、行動を促進するための具体的なアクションにつながるものである必要があります。組織やプロジェクトの複数の側面をバランスよくカバーすることも重要でしょう。

OKRは、チームの向き先を揃え、評価軸をクリアにすることで集中力を高めるもの。KPIは組織のパフォーマンスを評価する定量的な指標です。自分たちの成果や進捗を客観的に測定するための”ものさし”だということです。OKRとKPIは相互補完的に機能することで、組織全体の成果を最大化することができます。

では、OKRとKPIを使ってよりよい仕組みを構築しようとしたとき、両者は自然と統合するのでしょうか?実は、そんなことはありません。お互いの特徴を考慮したうえで上手くすり合わせることが不可欠です。

KPIは単なる数字ではない

まずはKPIからみてみましょう。KPIを策定するためには、最初に組織やビジネスにおいて把握するべき重要な指標を見つけなければなりません。目標との関連性や測定可能性、具体性などを考慮することが重要です。どの指標が重要であり、計測可能であり、アクションを生み出すことができるのかをよく考えて選択しましょう。これはKPIとして重要な要素であり、同時にOKRとしても必要な素養です。
KPIは、単なる数値だけでなく目標達成の意義や影響を示すための指標になります。そのため場合によっては、KPIだけを見つめ続けるのではなく、分解したり、その周辺の指標をピックアップすることもあります。

KPIが整理されてきたら、次は組織やチームで長期的な目標をOKRのフレームワークで検討します。目標は具体的かつ野心的なものとします。組織全体が共有できる方向性を示すものを考えてください。そして、この目標の達成を示すKey ResultsとしてKPIを議論し選択します。

組織やチームは定期的なレビューや進捗報告をとおしてOKRとKPIの連携を確認し、調整をおこないます。このプロセスは目標達成の進捗状況を透明化し、チーム全体の方向性を明確にします。くわえて、レビューや報告の際に得られたフィードバック等を活用し、戦略や施策を練り直すことができます。

このように、組織の目標と評価指標をOKRで管理しながらKPIと連携させることで、定性的な目標と定量的なマイルストーン、そして組織の定量的な評価が協働するようになります。組織やチームは目標を達成するための組織の方向性と具体的な定量指標を通した効果的なマネジメントが可能になるのです。

「新しいキャンペーンを成功させる」がOKR、「インプレッション数を150%にする」がKPI

それでは、具体的にOKRとKPIをどのようにして連携させればよいのか、Web広告の運用をする組織を例にして考えてみましょう。

Web広告の運用をする組織にとっては、購買に繋がったユーザーの流入経路、セグメントごとのインプレッション数、コンバージョン率、顧客獲得コストなどの数値が重要な指標であることは明らかです。つまり、これらの指標がWeb広告運用におけるKPIとなります。

この状態から新しいキャンペーンをおこなうとしたら、どのようなOKRを立てるべきでしょうか?例えば、Objectiveとして「新しいキャンペーンを成功させる」とおいてみましょう。このときKey Resultsとして「キャンペーン広告のインプレッション数を他広告の150%に向上させる」「キャンペーン広告のCTRを他広告の120%に向上させる」「キャンペーン経由のROASを2.5以上にする」といったものが考えられます。これらはどれもKPIとして使っている指標に定量的な目標値を設定したものです。これでObjetiveのKey ResultsをみながらKPIも監視している状態になります。

キャンペーンの成功を目標にKey Resultsの進捗を追いかけることでOKRの進捗を定量的に把握することができました。同時に、インプレッション数やCTR、ROASなどの指標はふだんからKPIとして追いかけているものですから、チーム全体の健全性も見渡すことができています。
OKRだけでは目標以外の側面で組織を管理することができず、いつのまにか不健全な状態になっているかもしれません。KPIだけであれば野心的な目標とその進捗を管理することは難しいでしょう。両方を協働させるように設定することで、野心的な目標へのフォーカスと組織の管理を上手くおこなうことができるのです。

OKRとKPIは組織やチームが目標を達成するために欠かせない重要な要素です。両者は異なる側面を補完し合い、組織やチームが目標に向かって効果的に進むための道しるべとなります。OKRとKPIを連携させることで共通の目標へ集中しながら、同時に組織全体の健全性を保つことができます。そのためには両者が相互に補完しているということを理解し、活用することが重要なのです。