気温は太陽からのエネルギーが大きなファクター
イソップ童話の「北風と太陽」という話がある。この話では、北風は寒いもの、太陽は暖かいものの象徴として書かれている。北半球に住んでいればそんなことは常識中の常識だが、なぜそうなのかを考えたことはあるだろうか。実は「北風と太陽」は気温をつかさどる重要なファクターなのだ。
地球の気温をあげるのは、ご存じの通り太陽から地球が受け取るエネルギーである。地球は太陽からのエネルギー(おもに可視光線)を受け取り、それによって地面や海面が温まる。すると、地面や海面と接する空気が温められる。これが気温の上昇する仕組みである。
それと同時に、地球は太陽から受け取ったエネルギーと同じ量のエネルギー(赤外線)を宇宙に向かって放出している。すると 、気温は下がる。このように、地球からエネルギーが放出されることで冷える現象を「放射冷却」という。
太陽からのエネルギーを受け取れるのは昼間の間だけである。また、太陽高度が高ければ高いほど面積当たり多くのエネルギーを受け取れる(これは、懐中電灯を垂直に照らしたときと、斜めから照らしたときを比べたら、垂直に照らされた面のほうが明るいことを想像すると理解しやすいのではないだろうか)。逆に、地球からはいつでもどこからも、同じ量ずつエネルギーが放出されている。
そうなると、昼は「太陽から受け取るエネルギー>地球から放出するエネルギー」なので、気温は上がっていくが、夜は太陽から受け取るエネルギーがゼロになる一方で、地球からはずっとエネルギーが放出され続けるので気温が下がっていく。だから、晴れた日に最低気温を記録するのは日の出前なのだ。
同様の原理が季節の気温にも当てはまる。夏は太陽高度が高いし昼間が長いため、「太陽から得られるエネルギー>地球から放出されるエネルギー」となり気温が高くなる。その一方で、冬は太陽高度が低いうえ昼間が短いので「太陽から得られるエネルギー<地球から放出されるエネルギー」となり、寒くなるのだ。
では、なぜ太陽高度が最も高い12時に気温のピークがこないのか。それは、太陽エネルギーが地球の表面をまずあたため、その温まった地球の表面がそこに接した空気を温めるまでに時間がかかるからだ。ストーブのスイッチを入れればすぐにストーブ自体は熱くなるが、ストーブの前の空気が暖かくなるまで時間がかかるのと同じである。日本では夏至の6月よりも7月や8月のほうが暑くなる原因のひとつも、これと同じ原理で説明できる(ちなみに、6月が梅雨だからという要素もある)。
なぜ北風は寒いのか
では、なぜ北風が寒いのか(もちろん、ここでいう「北」は北半球における北のことである)。それは、先ほど説明した太陽から受け取るエネルギーと地球から放出されるエネルギーの収支でやはり説明できる。
実は、太陽高度が高く、太陽から最もエネルギーを受け取れるのが赤道だ。そして、緯度が高くなるほど太陽高度が低くなっていくうえ、冬には日が短くなる。極地に至っては冬はまったく太陽が昇らない極夜となる。だから、緯度が高くなるほど太陽から得られるエネルギー量は少なくなる。しかし、地球から放出されるエネルギーは、赤道であろうと極地であろうと同じだ。だから、「赤道は太陽エネルギー>地球から放出されるエネルギー」となるので暑くなり、極地は「太陽からのエネルギー<地球から放出されるエネルギー」となるので寒くなるのだ。
しかし、そのような状態のままであれば、赤道は年々気温が高くなっていく一方だし、極地は低くなっていく一方のはずだ。そうならないのは、大気や海が対流することで、熱がなるべくまんべんなくいきわたるようになっているからなのだ。その対流がさまざまな天気を生み出しているのである。
日本付近は、いわゆる「低気圧」と呼ばれる温帯低気圧がたびたび通過する。この温帯低気圧は、赤道からの暑い空気(暖気)と、極地からの冷たい空気(寒気)が出会うことで発生し、寒気と暖気の境目には前線ができる。北半球では低気圧が近づいて温暖前線が通過すれば南寄りの風が吹いて気温が上がり、寒冷前線が通過すれば北寄りの風が吹いて気温が下がる。つまり、「北風」は北極からの空気が低緯度にまで移動するから寒いのである。これを「移流」という。
ちなみに、気温の予測をする計算式のひとつにも、この移流が考慮されている。たとえば、A地点から〇km離れたB地点に〇℃の空気の塊があり、そこから風速〇mの風が吹いていたら、〇 時後にA地点の気温は〇℃になるのか、という計算式である。
実は必要不可欠な温室効果ガス
さて、先ほど放射冷却の話をしたときに、「晴れた日の朝は」と前置きした。実は、曇りの日の朝は、さほど冷え込まない。これはなぜかというと、雲が布団のような役割をするからである。布団をかけずに寝ていると、体温が下がる一方で寒くなるが、布団をかけるとヌクヌクと暖かい。雲は、地面から放出されたエネルギーを吸収し、再び地面に向かって放出するため、地表付近が温まるのである。ちなみに、昼間に曇っていると肌寒いのは、雲が太陽からのエネルギーを宇宙に跳ね返してしまい、地表にまで届けないからである。このときの雲は日傘のような役割を果たすといえる。
地表からの赤外線を吸収し、再び地表に向かって放出するものといえば、温室効果ガスである。温室効果ガスとして最もよく知られているのは二酸化炭素だが、ほかにもメタンや、雲をつくる水蒸気なども温室効果ガスとして働く。
昨今は地球温暖化問題が声高に叫ばれ、温室効果ガスといえばとても悪いものというイメージが強い。しかし、温室効果ガスは実は地球上の生物にとってはとても大切なものである。温室効果ガスがある現在の地球全体の平均気温は14℃だが、温室効果ガスが全くなくなると、地球全体の平均気温は-19℃になるといわれている。-19℃というのは南極にある昭和基地の年平均気温よりも低い。こんな環境では寒すぎて、よほど充実した設備がないと人類はとうてい暮らせない。だから、温室効果ガスは、地球が生命の星であるために必要不可欠な存在なのである。
ではなぜ、今温室効果ガスが悪者にされるのかというと、人間の活動が原因で近年急速に増えており、それが気温や雨の降り方などに影響を与えていることについて「疑う余地もない」というのが多くの研究者の見解だからである。悪いのは温室効果ガスそのものではなく、不自然に増えすぎているということなのだ。
話は地球温暖化にまで及んでしまったが、とにかく気温という当たり前のように馴染んでいる存在も、実をいうと複雑なしくみで決まっているということだ。そして、「北風と太陽」はわりとそのしくみを端的に表現しているのである。