「何かしたい」。漠然とした想いであっても地方では支援を得やすい
――約1ヶ月前、宮田さんが「SaaS企業は地方に拠点を持つべき」という内容の投稿をX(旧Twitter)に行い、それが非常に話題となりました。その詳細をぜひご本人の口から伺いたいと思います。
宮田さん、貴社は静岡県沼津市に拠点がありますが、その理由を お聞かせいただけますか?
宮田:ありがとうございます。実は、共同創業者が沼津の高校に通っていて、私自身も沼津高専を卒業しました。私は厳密には沼津生まれではないのですが、沼津高専での経験が大きく影響しています。その頃から沼津に恩返ししたいという気持ちが強く、本社を沼津に構えることにしました。
沼津は私の人生の中で大きな影響を受けた地域です。例えば、大学時代に東日本大震災のボランティア活動に参加したことが起業のきっかけとなりました。当時、何をすべきか分からない状態でしたが、ある方が「俺がバスをチャーターするから、君は学生を集めろ」と言ってくれました。その経験が「学生でも目的を持って動けば、喜ばれるんだ」と実感させてくれました。その経験が、起業への道を歩む自信となりました。
――「何かしたい」という漠然とした気持ちでも、支えがあると形になりやすいということでしょうか?
宮田:そうですね、そのようなことを支援してくれる方がいると知った街でしたね。
ローカルのメディアが新興企業に注目。認知が広がりやすい
――他に、地域で起業することのメリットについて教えていただけますか。沼津に限らず、地域で起業することのメリットとは何でしょうか?
宮田:正直、地域で起業するメリットは多かったと感じています。一つ目は、応援してくれる人が増えたことです。沼津が本社ということで、地元の方々からの応援が多く、メディアにも取り上げられやすく、補助金も得やすかったです。具体的な例を挙げると、沼津高専の非常勤講師を務めたり、沼津信用金庫のテレ ビCMに出演したり、日経新聞の全国版静岡特集に掲載されたりしました。沼津市に本社があることで目立ち、様々な波及効果があったと思います。
――東京だとメディアも多いですが、その分競争相手も多く目立ちにくいですね。ローカルから始めて、そこから認知を広げていくということでしょうか。
宮田:はい、まさにその通りです。東京にいたら当社も普通のベンチャー企業として目立たないかもしれませんが、静岡県内でのITベンチャーはあまり多くないため、県内では名前が挙がりやすく、覚えてもらいやすいです。
地域には補助金制度も多い
――地方での起業に関して、信用金庫との関係も含めた助成金のメリットについて教えていただけますか?
宮田:地方では今、起業家を誘致するケースが非常に多いんです。静岡県もその一つで、私の人件費として3年間200万円を県から支給されました。200万円があれば、生活を維持するのに十分です。
県が支援してくれるおかげで、集中して仕事に取り組むことができたと思っています。また、銀行との連携も密です。起業のための補助金は、通常3分の2程度が助成されることが多いのですが、3分の1は先んじて自分たちで用意しなくてはなりません。しかし私達の場合、沼津信用金庫さんが大きなサポートをしてくれました。
また、起業家が多くない街に拠点を置くことは、それだけで差別化ポイントになります。実はやることは同じでも、場所を変えるだけで大きく差別化ができ、印象に残る起業になることができます。
――地方では過疎化が進んでいるため、行政は元気な企業を誘致することで 、地域の活性化に一役買ってほしいと考えているのですね。
実は地方の方が採用はしやすい
宮田:採用に関しても、地方では比較的しやすいです。今、多くの業界で採用が厳しいと言われていますが、地方では人材雇用が比較的できるんです。静岡は人口が多い県ですが、ITスタートアップは少ないです。そのため、ITスタートアップで働きたい人にとって、静岡県東部で当社のような企業は希少であり、受け皿として機能していると感じています。
当社はアシスタントの募集を東京や静岡で行っていますが、静岡での募集のほうが集まるんですよね。当社はフルリモートで仕事をしているので、実際には全国どこでも働けるため沼津本社に来る必要はほとんどありません。それでも静岡の方が多く集まるのは、やはり地元の会社で働きたいという気持ちがあるからだと思います。テレワークの仕事でも、静岡本社であることに安心感を持っている方が多いのです。
デメリットをカバーするための「2拠点」
ーー一方で、地方に拠点を置くことにはデメリットもありますよね?
宮田:当社はBtoBの企業なので法人向けに営業活動を行っているのですが、情報量や即時対応の点で課題があります。例えば、今すぐ来てほしいという要望に対して、静岡から東京に行くのは片道4000円、往復8000円かかるため、頻繁には対応しづらいです。このように物理的な距離があることで、BtoBの営業活動が遅れることがあります。
社内のマネージメントについては、年に数回しか直接会うことがないため、どこにいてもあまり変わらないと感じますが、営業活動においてはそうはいきません。特にBtoBの中小企業向けのサービスでは、対面での関係構築が重要ですし、知ってもらうことが必要です。そのため、知ってもらいたい会社が多い東京にも営業拠点を置く必要がありました。
また、他の地方に出向く際にも東京は便利です。先日も香川や富山に行きましたが、飛行機も新幹線も東京からは直通しているものの地方都市はそうではないので、コストがかかります。
このような課題を解決するために、セブンセンスマーケティングでは2拠点での活動という選択をしました。営業活動は都心部で行い、他の社員は静岡で働いてもらうようにしています。2拠点にすることで、経営者とのネットワーク作りや協業は進めやすくなります。
――拠点となる地方の街はどのように選ぶといいのでしょうか。
宮田:私の場合は好きな場所を選んでいます。ここはロジックよりも「好き」という気持ちや自分のクオリティ・オブ・ライフを考え見て選んでいます。その街にいることで自分が幸せを感じるかどうかですね。
私が沼津を好きな理由の一つは、沼津高専で学んだ経験があるからです。この高専での学びがあったおかげで、沼津に対する愛着が強くなり、また、高専仲間との仕事もスムーズに進められるメリットを感じています。自分の母校や出資した町に対する愛着は、重要な要素だと考えています。
――ありがとうございました。
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