髙橋 信久

髙橋 信久

1975年頃に仙台近くの駅で撮影。釜飯が売れたところ。

(写真:佐藤秀明

日本でDXが成功しない本当の理由

あらゆる業界、あらゆる企業でDXが話題になっている。しかしDXに真剣に取り組もうとしている企業はわずかで、成功する組織は一握りだ。つまり従来の進め方ではほとんどの企業はDXに失敗する。なぜなのか。その理由と対策をNeutrix Cloud Japanの髙橋CTOが解説する。

Updated by Nobuhisa Takahashi on February, 28, 2022, 8:50 am JST

誰もがデータの重要性に気づいてはいる

様々な企業のCxO(Chief x Officer)の方々とお話しする機会がある。多くのCxOは、データが重要だということには気づいているようだ。しかし、日本でデータを有効に活用してデジタル変革(DX)が成功した例はまだ多くない。データが重要だという意識と、実際のDX推進の間に乖離がある。

DXがうまく行っていない理由の1つは、自分たちが持っているデータをどう利活用するかのイメージができていないからだろう。グローバル化やボーダーレス化が進み、戦う相手は国内の同業者だけではなくなっている。あらゆるデータを活用して分析することで、ビジネスの軌道修正や新しいビジネスチャンスの獲得を推進する必要は明らかだ。しかし、今そこにある危機への対応としてDXを考えていないためモチベーションが高まらない。

活用企業ではCxOからのトップダウンが主流

CxOといっても立場が様々であることは間違いない。CEO(最高経営責任者)は、データが大事だと概念的には理解していても、具体的にどういうデータが必要かを理解していることは少ない。一方でCIO(最高情報責任者)やCTO(最高技術責任者)は、技術的にどのようにデータを活用できるかは知っていたとしても、企業としてのデータ活用のゴールをどこに定めるかまでは踏み込めない。実際には、マーケティングや営業の責任者レベルで、データの活用の必要性を感じていても、それが企業の中で具体化されないのだ。業務で必要とされるデータ活用と、経営の視点、技術の視点の間にそれぞれギャップが存在しているためだ。

これまで、早くからNeutrix Cloudのクラウドストレージサービスを利用してデータ利活用に乗り出している企業では、CxO、特にCEOがトップダウンでデータ活用の将来の方向性を見極め、現時点では多少のコストがかかってもデータ活用のためのインフラを整備するという例が多い。企業の財布の紐を最終的に握っているのは社長やCEOであることが多く、DXにブレークスルーするためには社長やCEOがデータ活用の門戸を開く必要がありそうだ。

現場からのボトムアップによるデータ活用も、もちろん重要だ。しかし、現場では個別最適なシステムを最低限の投資で作ることになりがちである。将来のビジネスの変革を見越して、社内のデータをマルチクラウドのプラットフォームに蓄積していくといった視点は得られにくい。デジタル化を効率的に進めることはできても、DXにはつながらない可能性が高いのだ。日本のデジタル活用はこのレベルにとどまっていることが多いと考える。

今は困らなくても、数年先に困るかもしれない

日本でもBI(ビジネスインテリジェンス)の活用が古くから叫ばれてきた。企業に大量に蓄積しているデータから必要な情報を集約し、ひと目でわかるように分析することで、意思決定や経営判断に役立てる手法だ。必要性や効果はわかっていても、実際のところそれほどBI活用は定着していない。現場が必要だと思って導入や利用を推進しても、分析するための基礎になるデータをどう集めてくるかの壁にぶつかることは少なくない。コストや技術的な問題から、データが分散していて、必要なときに必要なところに集めて利用することができないのだ。技術的には、DXがうまく行かない理由の1つは、データの蓄積の仕方にあると見ている。

もう1つ、日本企業に特有のITへの取り組み方も、DXが成功しない原因になっていると感じる。欧米では、ITをコントロールできる人材が企業内にいることが多い。データが集まって、新しい着眼点で分析しようとしたら、ユーザー企業の内部のIT人材がすぐに解析に取りかかれる。日本の企業では、歴史的にSIerに依頼してITシステムを構築、運用してくることが多かった。それも業種業態や自社に特有の状況を反映させるカスタマイズを盛り込んだシステム構築と運用だった。新しい着眼点でデータを分析しようとしたら、SIerに対して要件定義をして、基本設計をして、デプロイや試験を経てようやく実現が可能になる。これではコストがかかり、スピード感は得られない。こうしたITシステム構築の構造は、DXの障壁になる可能性が高い。

日本的なデータ活用の仕方でも、今日、明日は困らないかもしれない。しかし変革を求められるときは急に訪れる。数年先に大きな環境変化が訪れたとき、私たちの国の企業は変化に即応できるのか。DXを実現するためにデータ活用が重要だと気づいているならば、早く手を打っておかなければ数年後に困ることになることは自明なのだ。

DXにはデータを最大限活用できるインフラが不可欠

DXとは、単に事象をデジタル化して業務効率を向上させることを指すのではない。もちろん、アナログだった事象をデジタル化してデータとして取り扱えるようにすることで、結果として新しい気付きがあり、ビジネスの変革が実現できれば、それは立派なDXになる。しかし、デジタルデータになったことで一部の業務効率を上げて満足してしまっては、DXには到達しない。

DXで重要なのは、データとデジタル技術の活用をする上で、最大限活用できるインフラを整えることだ。どんなデータにも、必ず価値がある。社内のデータでも、現在はバラバラなシステムで利用されている複数のデータを横串で分析することで、新しい価値が見えてくる可能性は高い。社外のオープンデータと社内データをかけ合わせて分析したら、今まで気づかなかった自社製品の強みや弱みが見えてくることもあるだろう。そのようなデータを最大限活用するためのインフラとしては、すでにクラウドが最重要であることは間違いない。

クラウドを利用する上では、まだ日本ではオンプレミスとパブリッククラウドを融合させたハイブリッドクラウドの構成を採ることが多い。適材適所にデータを格納し、それを利用するという考え方だ。しかし、ハイブリッドクラウドでは、データが集まりたがるデータグラビティ(「すべての情報には質量がある」を参照)が作用し、データは結局のところ分断されてしまう。一度分断されてしまったデータを再び集めて利活用するのは難しい。

データグラビティ
グラビティを持つデータの元に、データは引き寄せられていく。

データだけが整備されていても、その上でビジネスの変革を遂行するビジョンとモチベーションが経営陣になければDXは成功しない。しかしそれでも、DXの障壁になるデータの分断を避けておくことは、今後訪れるであろう危機に立ち向かう地力を付けることにつながる。

Neutrix Cloudのクラウドストレージサービスでは、オンプレミスやプライベートクラウド、複数のパブリッククラウドを併用するマルチクラウドに対して、1カ所でデータをすべて管理することができる。

真のマルチクラウド
Neutrix Cloudはデータのサイロ化を回避し、マルチクラウドを実現する。

データの分断を避け、すべてのデータをいつでも使えるように準備しておくことが、DXの成功につながり、企業の持続可能性を高めるのだ。

データ主権を保ちながら企業価値を高めるNetrrix Cloudのクラウドサービス