改めて、ストレージとデータの関係について考えてみよう。ここで考えるのはローカルのストレージではなく、オンラインで接続して使うストレージだ。ビジネスに不可欠なデータを蓄積する場所として、ストレージにはどのような性格が求められるだろうか。
オンラインストレージというと、少し前までのサービスは「ネットワーク越しにストレージを提供するので自由に使ってください」というものが多かったように思う。ローカルストレージの代わりにデータを蓄積し、データ流通の自由度を高めることができた。しかし昔のオンラインストレージはセキュリティ面に課題があっただけでなく、速度などのパフォーマンスにも問題があった。個人がデータを保管したり共有したりするには便利でも、ビジネス用途ではバックアップのデータを置いておくための遠隔ストレージといった使い方ぐらいが現実的なものだった。
データの自由度を担保するために
そうした中で、クラウドサービスの利用が広まり、クラウド形式で提供されるコンピューティングパワーとデータストレージを使うことで利便性を高めることが可能になった。クラウドサービスはイニシャルコストが低い、スケールしやすいといったメリットがある。半面、データをすべてクラウドベンダーにロックインされてしまうと、データの活用の自由度に制限ができてしまう。
データを自由に活用できるようにするソリューションの1つが、マルチクラウドの利用だった。ロックインから逃れるために複数のクラウドを適材適所で活用するマルチクラウド環境を整えることができれば、一定のデータ活用の自由度は担保される。それでもユーザーがマルチクラウド基盤を作ろうとすると、複雑なネットワーク構成やデータのバックアップ環境の整備など、エンドユーザーがすべてを満足できるように考えるのは難しい。マルチクラウドでデータを自在に活用できる環境を整えながら、安全で性能の高いストレージを用意するとなると、ユーザーには荷が重いケースが多いのである。
Neutrix Cloud Japan はINFINIDAT社のクラウドストレージサービス「Neutrix Cloud」を提供する。クラウドストレージサービスは、オンラインストレージとは位置付けが異なり、サービスとしてストレージを提供するストレージ アズ ア サービス(Storage as a Service)との位置付けだ。セキュリティ、パフォーマンスに加えて、ネットワーク接続の複雑さを解決したサービスを提供している。マルチクラウド環境でデータの自由度を確保することが、Neutrix Cloudの提供する価値といえる。
データを捨てないで済む社会インフラ
今回の記事のポイントはここからの部分にある。Neutrix Cloudでは、保管するものとして「デジタルデータはすべて対象だ」と考えている。すべてのデータを保管することが、データから価値ある情報を引き出すための必要条件だという発想だ。
もちろん生のデータは玉石混交であり、蓄積しておいても使い勝手が悪いものや、ノイズにしかならないものもあると考え、コストを掛けて蓄積するデータは選別したものに限定するという方法もある。過去のデータにどれだけの価値があるかを考えると、蓄積するコストが価値を上回るとも考えられた。実際に、Neutrix Cloudが登場する前の多くのユーザーは、そのように考えて古いデータを捨てていた。
しかし、捨てていたデータに本質的な価値があるものもあるはずだ。今の時点で価値がないと思われているデータも、将来的には何らかの価値を生む可能性がある。今のデータ解析技術では判明しなかった新しい事象が、将来の解析技術で見えてくることを誰が否定できるだろうか。「不要なデータ」というのは、「現時点では不要」なだけであり、将来にわたって不要かどうかは判断できない。Neutrix Cloudの考え方は、「不要なデータなどはなく、すべてのデジタルデータを対象として保管することの必要性が今後ますます高まっていく」というものだ。
今見えない価値を生むための将来に保険をかける。その保険の1つとして、すべてのデジタルデータを蓄積することを想定してほしい。Neutrix Cloudのクラウドストレージサービスは、すべてのデジタルデータを蓄積できる環境を提供し 、データを消失させてしまって価値を生み出せないような事態を避けるための力になるはずだ。
データを取り貯める基盤としてのNeutrix Cloud
それではNeutrix Cloudは、既存のクラウドサービスのストレージと何が違うのか。それを考えることでNeutrix Cloudの思想と価値を感じてもらえるだろう。
AWS(Amazon Web Services)などのハイパースケーラーのサービスで、ブロックストレージにデータを蓄積するケースを考えてみる。ストレージのパフォーマンスの1つで、ある条件の元で1秒間に読み込み/書き込みできる回数を示すIOPSは、標準的な契約では数1000のオーダーで、あまりパフォーマンスが高いとは言えない。Neutrix Cloudは標準のサービスでも1万6000というIOPSでストレージを提供している。ハイパースケーラーのサービスで1万6000のIOPSを実現しようとしたら、高額なオプションの契約が必要になる。
このように高いパフォーマンスを備えながら、Neutrix Cloudはギガバイト単価をハイパースケーラーのストレージを下回るコストで提供している。つまりNeutrix Cloudはハイパースケーラーのクラウドサービスよりも圧倒的な低コストで 利用できるのだ。
もちろん、コールドストレージ、ディープアーカイブといったストレージの提供手法もあり、単純にコストを下げることは可能だ。ただしこの場合にはデータの処理の優先順位も下げることが必要で、すぐに利用したいデータの保管手法としては活用が難しい。データはただ蓄積してあるだけでは、単なるビット列でしかない。これを使いたいときにて適正なコストですぐに呼び出して、求める形で分析することによって情報の価値が生み出される。低コストですべてのデータを保管しながら、それをいつでも引き出して使えるようにすることが、データの民主化の1つのゴールであり、Neutrix Cloudが提供するクラウドストレージサービスの価値でもある。
実際に「処理できるストレージ」をいかに安価に提供するか。データの民主化を理想だけでなく、現実的なコストの観点からも後押しするクラウドストレージサービスが、マルチクラウド時代のデータの土台になることがわかるだろう。
最後に、なぜ「すべてのデジタルデータの保管」が重要かのもう1つの考察を添えておく。
AI技術などを活用したビッグデータ解析により、様々な価値が生み出されるようになってきた。しかし、現状のビッグデータ解析には課題がある。ビッグデータを基に分析するときは、いかに大量にあるといっても過去のデータを基に分析して未来を予測することになる。すなわち、過去の経験則に基づく分析であり、既成概念を超える分析はできないと考えられる。現状のビッグデータ解析の限界だ。
将来的により本質的なビッグデータ解析が可能になったとき、今まで想像でき なかったアプローチで新しい価値が生まれる可能性がある。すなわち、今は解析しても価値がないと思われているデータであっても、将来には見えない価値を生みだす可能性があることの考察である。今のコストといった視点でデータを捨ててしまうということは、自らが持つ将来の価値を捨てることにつながるだろう。