髙橋 信久

髙橋 信久

2001年のニューヨークのグランド・セントラル駅。単一の駅としては世界最大で、数々の映画の舞台になっている。飲食店が多数テナントに入っており、なかでもオイスターバーは有名。

データの民主化から始めよ

DXを推進する技術の一つがクラウドであることに疑いを持つ人は少ないだろう。しかしそこには本当にデメリットは存在しないのか。強力な1社のサービスに頼りきるのではなく、マルチクラウドでデータの民主化を進めるべき理由をNeutrix Cloud Japanの髙橋CTOが語る。

Updated by Nobuhisa Takahashi on November, 29, 2021, 9:00 am JST

米国を見ると「マルチクラウド」が加速している。日本にはITのトレンドが米国よりも3年から5年遅れて入ってくることが多い。マルチクラウドは、日本でも今後さらに注目される技術の1つになるだろう。

これはずっと話をしてきていることだが、なぜか日本ではアメリカで先行したITトレンドのある種の失敗を避けて通ることをせずに、同じ形で失敗を繰り返すことが多い。クラウドへのシフトも、米国での前例から得られる知見に学ばずに突き進んでいるように思えてならない。米国ではパブリッククラウドが流行して、課題が見えてきたことから、オンプレミスのプライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせる「ハイブリッドクラウド」や、複数のパブリッククラウドを組み合わせて利用する「マルチクラウド」が選ばれてきた。そして、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドでも課題が解決できないケースでは、オンプレミスにシステムを戻す「オンプレミス回帰」も実際に始まっている。

翻って日本国内を見ると、パブリッククラウドへのシフトの時期を経て、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドの採用が始まってきたという段階にある。ユースケースによってオンプレミス回帰まで到達する段階には、まだ時間がかかる。それならば、米国の例を見習って、パブリッククラウドの課題を見極め、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドの検討を進めるのが、現段階のベストな方向性だろう。

パブリッククラウドのリスクを考えよ

パブリッククラウドを利用する最大のメリットは、「1から作るよりも早くサービスを提供できること」だ。オンプレミスで資産を持つよりも柔軟にスケールできることや、うまく用途とサービスが適合すればコストが下げられるということもメリットにはあるが、ケースバイケースのメリットになる。一部ではパブリッククラウドに移行してランニングコストが急増するというケースもあり、誰もがコストメリットを得られるというわけではない。そうすると、サービスへのリードタイムの短縮が共通するパブリッククラウド導入のメリットとなる。

一方で、デメリットはないのか。例えばAWS(Amazon Web Services)を使って何らかのシステムを構築する。一般にAWSを利用することにしたら、5年から7年といった期間の継続利用が前提になることが多い。スケーラビリティがあるパブリッククラウドだと言っても、サービス開始時点の需要が2年後、3年後に継続するかどうかはわからず、今後の需要の増減にAWSが対応できるかどうかはわからない。さらに、これまでなかったような新しいニーズが生まれてきたとき、AWSで機能的にスケール的に対応できるかどうか、確証はない。予測は不可能なのだ。

そして、AWSの利用を始めて、最初は数百GBであったり、数TBであったりというストレージ容量だったものが、利用の拡大につれて数百TBに上るということは稀ではない。こうした大容量のデータをパブリッククラウドに保存するようになってから、AWSでは対応できない機能や性能が求められて、マイクロソフトのAzureに移行しようといっても、大きな費用と労力がかかる。パブリッククラウドでは、データを読み出す際にコストがかかる仕組みになっていて、膨大な蓄積を手軽に移行するということができない。

これらが、単体のクラウドに依存する形で利用するパブリッククラウドの問題点となる。利便性と引き換えに、1つの会社にデータを人質にされてしまうのである。「データロックイン」と呼ぶ状態で、こうなってしまうと、コストや手間の側面だけでなく、新しい価値を生み出すビジネスにスピーディーに対処することへの弊害にすらなりかねない。

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便利に利用されるパブリッククラウドだが、短所もある。「ロックイン」されるとせっかくのデータもスムーズに活用することができない。