人類に残された知のフロンティアはどこか
「《6月26日開催》AIの主役はアルゴリズムではなく「データセット」だった!ChatGPTを作れなかった日本が目指すべき、これからのAI開発」に登壇したAI研究家の清水亮氏の発言「これからは小説も映画も生成する時代になる」は大変なインパクトがあった。
開発スピードに緩急はあれど、AIの技術はこの先も発展の一途を辿る。それは、あらゆることがプログラムによって算出できるようになっていくことを意味する。では今後、人はどのような価値を生みだしていけばいいのだろうか。ヒントは身体性にある。
ご存知の通り、人の身体からは簡単には説明のできない事象が発生する。例えば「阿吽の呼吸」。どうして、語らずとも瞬時に動きを同期させることができるのか。それから、背後の視線を感じること。ときにそれは相手の感情まで汲み取ることができる。ややオカルトじみてはいるが「虫の知らせ」もここに含まれるかもしれない。
これらはまだ、計算 によって再現することが難しい領域だ。厳密にいえば、個別のケースに対応することはすでに可能なのかもしれないが、それをスケールさせることは困難である。よってここには、AIに対する人間の優位性が残っている。
「生物学」から人を考えるから限界が来る
これまで、人が持つ能力の多くは「進化」の文脈で語られてきた。そして従来、進化の分析の中心には生物学があった。しかし慶應義塾大学 医学部教授・桜田一洋氏は「生物学は人間を機械(誰かが設計したもの)として捉えているために、見落としているものがたくさんあります。起きている事象を因果的に解釈するため一見よくできた説明がなされていますが、現代の科学と照らし合わせると整合性がとれないことが多い。そもそも、単純なバクテリアから高等生物が生まれる理由を説明できなくなっているんです」という。
桜田氏によれば、進化論を押し進めてきた「突然変異」の理論も破綻している。
「変異してしまうものを制約する役割が遺伝子なんです。遺伝子は自ら変わろうとする存在ではありません」
では、どのようにして私たちは「進化」し、高度な能力を獲得できたのか。桜田氏は物理学からアプローチして考えている。
「生き物はメッセージを送り合い、同期することで変わっていったのではないかと考えています」
当然ながら、原子生物は言葉を持たないためメッセージの交換は何かしら身体的な刺激によって行われていた可能性が高い。つまり、生物を進化させた鍵は身体性そのものにある。
人はなぜ同期できるのか、価値を生みだし、それを感じることができるのか
また、身体が持つ能力を哲学的な文脈で分析している中京大学国際学部国際人間学専攻教授の長滝祥司氏は、著書『メディアとしての身体』(東京大学出版会)のなかで身体と知能・感情・道徳との関係を紐解いている。
また、長滝氏は、大学サッカーにおける全国大会常連の強豪校の顧問であり、身体の使い方だけでなく、そこで発生する人と人との関係性、身体が引き起こす驚異についての観察を日々続けている。なぜ見えない相手にパスが通るのか。そのとき人間に起きていることは何かという考察は、まさに桜田氏の主張する生物がはるか昔から行ってきた「メッセージ」のやりとりに通じる何かがあるはずだ。
互いにメッセージを送り合い、同期していくことは私たち生物の本質的な行動かもしれない。また、それが人と機械を分かつものだということがわかれば、機械に飲み込まれようとしている私たちの社会に新たな活路が見出されるだろう。
当イベントでは、桜田氏と長滝氏にこれからの時代にこそ重要になる「身体性」について議論していただく。
人はなぜ同期できるのか、気持ちを伝えることができるのか、価値を生みだしそれを感ずることができるのか。AIが広く社会に普及していく時代に、新たな価値を創造したいと望む人々のヒントになれば幸いである。
イベント詳細
開催日時 2023年8月1日(火)16時〜
参加方法 ZOOM接続(オンラインのみ)
費用 無料
参加方法 こちらのフォームよりお申し込みください
https://forms.gle/cLvMTjpTWvpb43188
(締切:2023年8月1日(火)15時。お申し込みいただいた方には1週間の見逃し配信を行います)
出演:桜田一洋、長滝祥司(聞き手:竹田茂(Modern Times発行人))
登壇者プロフィール
桜田 一洋(さくらだ・かずひろ)
慶應義塾大学・医学部 石井・石橋記念講座(拡張知能医学)教授
大阪大学大学院理学研究科修士課程修了(生理学専攻)。1988年協和発酵工業株式会社東京研究所に研究員として入所。2000年同研究所主任研究員。2004年日本シエーリング株式会社リサーチセンターセンター長。2007年バイエル薬品株式会社執行役員、神戸リサーチセンター長。2008年iZumi Bio, Inc.執行役員、最高科学担当責任者。同年株式会社ソニーコンピューターサイエンス研究所シニアリサーチャー。2016年 理化学研究所 医科学イノベーションハブ推進プログラム 副プログラムディレクターとなる。2021年より慶応大学医学部拡張知能医学講座教授として学生の指導にも携わり現在に至る。最新著書『亜種の起源 苦しみは波のように』(幻冬舎、2020)で、 「心」をサイエンスで捉える生命論を展開する注目の研究者。
長滝 祥司(ながたき・しょうじ)
中京大学国際学部国際人間学専攻(哲学・人間学専修)教授。東北大学文学部社会学科卒業、東北大学大学院文学研究科哲学専攻修了(博士(文学))、日本学術振興会PD、カリフォルニア大学バークリー校哲学科客員研究員などを経て、2020年4月より現職。専門は、心と身体の哲学、現象学、認知科学、マインド・リーディングやスポーツの技能などの暗黙知研究。『メディアとしての身体』(東京大学出版会 2022)、『認知科学講座3 心と社会』(共著 東京大学出版会 2022)『Emotion, Communication, Interaction』(共編著 Routledge 近刊)ほか、著書・論文など多数。中京大学体育会サッカー部部長として、インカレ準優勝、総理大臣杯準優勝。