米国を見ると「マルチクラウド」が加速している。日本にはITのトレンドが米国よりも3年から5年遅れて入ってくることが多い。マルチクラウドは、日本でも今後さらに注目される技術の1つになるだろう。
これはずっと話をしてきていることだが、なぜか日本ではアメリカで先行したITトレンドのある種の失敗を避けて通ることをせずに、同じ形で失敗を繰り返すことが多い。クラウドへのシフトも、米国での前例から得られる知見に学ばずに突き進んでいるように思えてならない。米国ではパブリッククラウドが流行して、課題が見えてきたことから、オンプレミスのプライベートクラウドとパブリッククラウドを組み合わせる「ハイブリッドクラウド」や、複数のパブリッククラウドを組み合わせて利用する「マルチクラウド」が選ばれてきた。そして、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドでも課題が解決できないケースでは、オンプレミスにシステムを戻す「オンプレミス回帰」も 実際に始まっている。
翻って日本国内を見ると、パブリッククラウドへのシフトの時期を経て、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドの採用が始まってきたという段階にある。ユースケースによってオンプレミス回帰まで到達する段階には、まだ時間がかかる。それならば、米国の例を見習って、パブリッククラウドの課題を見極め、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドの検討を進めるのが、現段階のベストな方向性だろう。
パブリッククラウドのリスクを考えよ
パブリッククラウドを利用する最大のメリットは、「1から作るよりも早くサービスを提供できること」だ。オンプレミスで資産を持つよりも柔軟にスケールできることや、うまく用途とサービスが適合すればコストが下げられるということもメリットにはあるが、ケースバイケースのメリットになる。一部ではパブリッククラウドに移行してランニングコストが急増するというケースもあり、誰もがコストメリットを得られるというわけではない。そうすると、サービスへのリードタイムの短縮が共通するパブリッククラウド導入のメリットとなる。
一方で、デメリットはないのか。例えばAWS(Amazon Web Services)を使って何らかのシステムを構築する。一般にAWSを利用することにしたら、5年から7年といった期間の継続利用が前提になることが多い。スケーラビリティがあるパブリッククラウドだと言っても、サービス開始時点の需要が2年後、3年後に継続するかどうかはわからず、今後の需要の増減にAWSが対応できるかどうかはわからない。さらに、これまでなかったような新しいニーズが生まれてき たとき、AWSで機能的にスケール的に対応できるかどうか、確証はない。予測は不可能なのだ。
そして、AWSの利用を始めて、最初は数百GBであったり、数TBであったりというストレージ容量だったものが、利用の拡大につれて数百TBに上るということは稀ではない。こうした大容量のデータをパブリッククラウドに保存するようになってから、AWSでは対応できない機能や性能が求められて、マイクロソフトのAzureに移行しようといっても、大きな費用と労力がかかる。パブリッククラウドでは、データを読み出す際にコストがかかる仕組みになっていて、膨大な蓄積を手軽に移行するということができない。
これらが、単体のクラウドに依存する形で利用するパブリッククラウドの問題点となる。利便性と引き換えに、1つの会社にデータを人質にされてしまうのである。「データロックイン」と呼ぶ状態で、こうなってしまうと、コストや手間の側面だけでなく、新しい価値を生み出すビジネスにスピーディーに対処することへの弊害にすらなりかねない。
データロックインされないための手法にも 課題
こうしたパブリッククラウドの課題に気づいた米国では、いち早くハイブリッドクラウドやマルチクラウドの利用が始まった。先程も説明したように、ハイブリッドクラウドはオンプレミスのプライベートクラウドとパブリッククラウドを、マルチクラウドは複数のパブリッククラウドを用いるもの。用語は似ているが、内容はかなり異なる。いずれも、「すべてを1つのパブリッククラウドに移行する」のではなく、適材適所に複数のクラウドを適用する。パブリッククラウドによるデータロックインの問題は解決できるかに見える。
しかし、この適材適所は、要するに「部分最適化」であり、それぞれのシステムが求める要件に適したクラウドを部分的に利活用しているだけとも言える。複数のクラウドを使うことで、特定の要求に対しては最適なシステム設計ができたとしても、それぞれで用いるデータも複数のクラウドに分散されてしまう。
データが重要ということは、企業であれ政府であれ、皆気づいている。経済産業省はデータ利活用を声高に叫び、国の成長戦略としてもデータ利活用環境の整備が掲げられている。ところが、パブリッククラウドへの移行ではデータがロックインされて自由に使えなくなる可能性があり、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドでは重要なデータが分散されてしまう。ITシステムが部分最適化されて分断される「システムのサイロ化」が言われるのだが、データが相互にやり取りできないクラウドAとクラウドBに分断される「データのサイロ化」が起こってしまう。データを活用すべく、経営層が「データをこの形で分析してくれ」と 依頼したとしても、データがクラウドAとクラウドBに分散したままでは、目的の分析ができない。
対処法としては、クラウドAからデータを抜き出して、クラウドBに移行して分析するといったことが挙げられる。しかし、これも小さなデータならば対応可能であるが、数百GBから数TBといったデータでは移行するだけでも時間や労力がかかる。その上パブリッククラウドの料金体系では、預けるときに料金はかからないとしても、ダウンロードするときには料金がかかる。ハイブリッドクラウドやマルチクラウドへと移行しても、新たな課題が発生してしまうのである。
クラウド連携ストレージという発想
パブリッククラウドで「データロックイン」の課題に直面し、その対処作として導入したハイブリッドクラウドやマルチクラウドでは「データのサイロ化」が起こる。こうした状況からは、クラウドの利用のメリットを上回るデメリットが生じるケースすら考えられる。だからといって、パブリッククラウドを使わず、完全にオンプレミスでシステムを構築、運用するという選択肢は、今となっては考えられない。どうしたらいいか。そこに私たちNeutrix Cloud Japanの役割があると考えている。
米国でスタートしたINFINIDAT社のクラウドストレージサービス「Neutrix Cloud」を、国内で提供するために設立したのがNeutrix Cloud Japanだ。Neutrix Cloud Japanは、INFINIDAT社のクラウドストレージサービスに加えて、コンピューターやネットワークもふくめたクラウドサービスを総合的に提供している。
Neutrix Cloudは、データロックインやデータのサイロ化といったクラウド利用の課題に解決の道筋を与える。企業であれ自治体であれ、最重要な「データ」を低コストで保管できる唯一の場所としてクラウドストレージのNeutrix Cloudを利用すれば、パブリッククラウドやプライベートクラウド、オンプレミスなど各所にあるシステムからデータを利用してコンピューティングが可能になる。すなわち「クラウド連携ストレージ」という概念を実体化した。
クラウド連携ストレージであれば、システムが求める要件に対応する性能や機能もつクラウドを適材適所で採用しながら、最重要な「データ」はデータロックインもデータのサイロ化もされない。こうした「真のマルチクラウド」を追求していくことが、パブリッククラウドの罠に落ちないために必要になると考えている。