薄井研二

薄井研二

(写真:PeopleImages.com – Yuri A / shutterstock

そのKPI、本当に役に立っていますか?

データドリブンな組織においてKPIの策定は重要です。しかし実は、自分たちのビジネスの特性をよく考えずに指標を定めている企業が少なくありません。
そのKPIが自分たちにとって良い指標となるのかどうかを検討しないまま使っているケースが見受けられるのです。

Updated by Kenji Usui on May, 31, 2024, 5:00 am JST

データドリブンであろうとするために、適当にKPIを決めたり、誰かに言われるがまま指標を採用してみたり、決めた指標の妥当性を振り返らずにずっと使いまわしたりするなど、本来はビジネスを改善させるためのKPIが、ビジネスや目標と整合しないため空回りしていることがあります。

取得できるデータのすべてがビジネスをドライブさせるわけではありません。SaaS企業がChurn Rateを見ているのも、広告を扱う人がコンバージョン率をみているのも、それらの指標がビジネス上の重要な理由をもっているからです。指標がビジネスをドライブさせるにはビジネスと指標がお互いに連携している必要があります。

自分たちのビジネスを十分に理解していなければ、KPI選定はできない

ビジネスをドライブさせるKPIを定めるために、まずはKPIを選んだ理由を説明できるようになりましょう。

たとえば、あなたのチームの目標が「登録して1カ月以内のユーザの離脱率低下」が目標だとしましょう。このとき、離脱率に影響がある指標として「プロフィールの入力完了率」が重要だと考えてKPIと設定しました。ここで一旦立ち止まり、その決定が妥当なのか考えてみましょう。ここでいう「妥当」とは十分なロジックがあり、説明ができることです。

この問題の答えはきっといくつかのパターンが考えられます。たとえば、1つは統計的な関係です。離脱率と入力完了率に相関がある、ということです。この前提のもとに、入力率を改善させることで離脱率が改善するのだと決定したということができます。

他にも、UXリサーチに基づく定性的な理由もあるでしょう。たとえば、ユーザへのインタビューや観察から入力の完了率がその後の行動に深く影響することがわかっているとしたら、このような指標をKPIとして設定することは妥当に見えますね。

(写真:Brian A Jackson / shutterstock

このように目標とKPIの結びつきが説明できる状態になっていることが重要です。指標を改善すると自分たちの目標を達成できる(少なくとも大きく前進する)という関係性の説明です。逆にいえば、目標と指標がリンクしていなければ、そして説明できないならば指標を改善しても目標の達成に近づくことは難しいでしょう。これでは指標を決めた意味がありません。

KPIと目標の関係性を説明できるまで考えることは簡単ではありません。まず自分たちのビジネスと目標を理解する必要があるからです。そのうえで指標との関係を結び付けられなければなりません。元も子もないかもしれませんが、適切なKPIを選定できていないのは自分たちのビジネスや目標を十分に理解できていないことに起因しているケースも少なくありません。

「とりあえず」で指標を決めない

現実的な問題として、前述したように目標と指標の関係を整理したうえで十分な説明をおこなっていない組織は多くあります。なぜ、そのようなことが起きるのでしょうか。原因の1つにKPIを「とりあえず」設定してしまうことが上げられます。十分な調査や議論を踏まえず場当たり的に指標を定めてしまうのです。

今や、データを活用しビジネスを改善・加速させることは多くの企業で行われるようになり、社会全体でデータ活用に関する知見もたまってきています。書籍や記事を探せば自分たちのビジネスに使えるような指標が多く見つかるでしょう。しかしこのように便利で定番の指標が多いからこそ、自分たちにとってその指標が妥当なのか考えずにKPIとして設定されてしまうということが起きます。

たしかにChurn RateやNPSといった指標は重要です。しかし、それがすべての組織・ビジネスモデルで有効なわけではありません。もっと言うならば、そのときの組織の状態や目標によって妥当なKPIは変化しますので、いつも適切に役割を果たす魔法のKPIのようなものは存在しません。どのような場合でも指標が自分たちにとってどのように有用なのか考える必要があります。

その指標がよくなるとなにが嬉しいのだろう?

企業がKPIを設定するとき、私はよく「その指標が改善されるとなにが嬉しいのでしょうか?」と問いかけています。とてもシンプルな質問ですが、その指標を選びにロジックがあるかどうかをあぶり出す問いです。正しく背景と理由が整理されていれば「指標が改善されるということはUXの改善を意味しており、離脱を防ぐことができる」のような説明をすることができますし、説明できないのであれば検討はまだ不十分です。

この問いにはチームメンバー全員が説明できるようになっていなければなりません。KPIは決めただけでは意味がなく、それを活用する必要があり、そのためにはチームのメンバーが背景を理解していなければならないからです。

「理由は説明しないがこのKPIを改善しろ」と命令したところでチームが自律的に良い行動をとることは極めて難しいでしょう。背景がわからなければ打ち手はバラバラになってしまいます。数値ハックのような振る舞いも(悪意があるかどうかは別として)発生しかねません。

理由を共有したうえで数値目標を設定すれば、自ずとチームはやるべきことへ集中することができます。背景がわかっていれば各自で適切な判断をとりやすくなります。なにより、自分の行動とビジネスへの貢献がわかっていることはモチベーションの向上にもつながるでしょう。