無形資産は契約一つで国境を越える
無形資産が増えることに対しては、森信茂樹氏が次のように警鐘を鳴らす。
企業が生み出す価値のなかで無形資産の重要性が高まると、それを低税率国やタックスヘイブンに移転させることで、租税を回避することが容易になっていったという。無形資産は有形資産と異なり、契約一つで容易に国境を越えて子会社などに移転させることが可能である。後述するGAFAM (Google Apple、Facebook Amazon Microsoft) は、自ら集めたビッグデータをもとに、無形資産が多い企業をビジネスモデルの中核に据えようとしているのである。
無形資産に税金をかける方法については、これまでも先進諸国で議論の対象となってきた。デジタル経済は無形資産に大きく依存し、一国に物理的な拠点を設けず、事業規模を拡大することができる。とすれば、従来のような国家単位での税金のかけ方では税を徴収することは難しくなる。しかもタックスヘイブンを利用し、租税をできるかぎり回避することも可能である。OECD(経済協力開発機構)とG20では、それに対抗するため、新たな課税方法を模索しているところであるが、まだ有効な手立ては打てていないといってよい。
私の考えでは、これまでの企業が無形資産を重要な資産だと認識してこなかったわけではない。だが、それを明確に資産化しなかっただけである。無形資産の明確化は、株価の著しい高騰をもたらし、現代の経済を歪めたものにしているのかもしれない。
*この本文は2023年8月29日発売『商人の世界史 小さなビジネス革命が世界を変えた』(河出新書)の一部を抜粋し、ModernTimesにて若干の編集を加えたものです。