小宮裕和

小宮裕和

自然発生的マルチクラウド(クラウドカオス)を突破、データ民主化時代のクラウドサービス活用術

ボトムアップでIT投資が行われることが多い日本企業においては、部門や目的ごとにクラウドを導入し、結果として社内で複数のクラウドサービスを利用するマルチクラウド状態になっているケースが多く見られます。データやシステムのサイロ化、いずれは経営上の問題を引き起こしてしまう危険性のある「自然発生的マルチクラウド」とは何か、またその状態からはどのように脱却すればよいのかを、三菱総研DCS テクノロジー事業本部 クラウドテクノロジー部長 小宮裕和氏が解説します。

Updated by Hirokazu komiya on August, 21, 2023, 5:00 am JST

自然発生的マルチクラウドから脱却するための3つの鍵

それでは、自然発生的マルチクラウドを回避するためにはどうすればよいでしょうか。我々は、2つのツールと1つのポリシーを持って対処することで、自然発生的マルチクラウドから脱却することができると考えました。3つの要素とはつまりマルチクラウド接続ネットワーク、中立的ストレージ、全体最適化です。これによって自然発生的マルチクラウドを脱却し、最終的には、アナログ業務のデジタル化、業務プロセス改革、ビジネス改革の実現に繋がっていくと考えています。

1つ目は、マルチクラウド接続ネットワークです。インターネット経由であれば大手のパブリッククラウドに気軽に接続できるわけですが、当然、セキュアな回線を使って接続することが望ましいわけです。各パブリッククラウドもそういったサービスを用意してセキュアにアクセスできるようしているのですが、これをパブリッククラウドごとに接続契約していくというのは、スマートな方法ではありません。1箇所で各クラウドにセキュアに接続できるサービスを利用した方が、当然楽になります。

2つ目は、中立的ストレージが必要だということです。もちろん各パブリッククラウドは、当然ながらストレージも提供しています。特に、AWSのS3は魅力的な価格で、使い勝手もいい。ただし、それはAWSの中だけで使っている時に限った話です。ひとたびデータを外部に出そうとすると、費用が請求されます。つまり囲い込みをしているわけですね。このような囲い込みは他のクラウドでもなされています。マルチクラウドの時代においては、外部のクラウドサービスにすべてのデータをそのまま渡すのではなく、自分たちのデータをしっかりと持っておくことが何より重要ということです。このためにもデータ主権を維持できる、つまり自分たちがデータの出し入れを自由にできるストレージ領域、つまり中立的ストレージが必要ということです。 

3つ目は全体最適化の視点、一貫したポリシー・概念を持つということです。具体的には特定のクラウドに傾倒してしまってベンダーロックインされないよう、データ主権が常にお客様にあり、データの可搬性が担保されることを念頭にシステムを考えるということです。例をあげますと、これまでAIや分析の分野ではGoogleが強者として認識されていましたが、ご存じのようにChatGPTの出現により、その考えは一変しました。 MicrosoftつまりAzureが今後の主役になる可能性も出てきたわけですが、現在Google Cloudで分析をしていて、そこにしかデータが残っていない企業は、乗り換える際には高いデータを出力するための費用をGoogleへ支払わなくてはなりません。技術革新が非常に速いクラウド分野においては、データ主権、可搬性がいかに重要かご理解いただける事例だと思います。

このような事実を少しでも多くの方に知っていただき、ベンダーやSIerを選定する際にはご考慮いただければ幸いです。また同時になんでもかんでも特定のパブリッククラウドで実装しようとするベンダーには、ぜひご注意いただきたいと思います。

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※この記事は、2023年5月31日に実施したオンラインイベント「データ民主化の方法論(Democratic Data Day Spring2023)」 における小宮氏の講演の一部を記事としてまとめたものです。(Modern Times編集部)