「ミュージアムショップと雑貨店って何が違うんですか?」
筆者はミュージアムグッズ愛好家として、国内を中心にミュージアムショップ、ミュージアムグッズを見て回り、書籍などを通じてその魅力を発信している。ミュージアムショップの定義を、ここでは田所陽子が『博物館学事典』のなかで定義したように、博物館が刊行した書籍、出版物や収蔵・展示物に関係のある品物を販売する売り場や、売店のことをミュージアムショップとする。※1
この活動をしていると「ミュージアムショップと雑貨店って何が違うんですか?」「街にある雑貨屋さんと何が違うの?」と聞かれることがある。確かに、博物館の中にあるお店。何のためにあるのだろうと疑問に思われる方も多いかもしれない。博物館経営論の観点からどのような役割があるのか紹介していこう。
山下治子はミュージアムショップを、「博物館のコンセプトが品揃えや雰囲気に反映された物販施設」と定義している。※2 青木豊もミュージアムショップは「展示室の延長」であると述べている。※3 ここから、博物館がどんな場所なのか、展示でどんなことが伝えたいのかを、ミュージアムショップからも発信していくことの重要性を読み解くことができるだろう。
※1 田所陽子 1996「ミュージアム・ショップ」倉田公裕監修『博物館学事典』pp.290,東京:東京堂出版.
※2 山下治子 2012「ミュージアムショップとレストラン」『新博物館学教科書博物館学III——博物館情報・メディア論*博物館経営論』大堀哲・水島英治(編). pp.177-185.東京:学文社.
※3 青木豊 1999「ミュージアム・サービス」加藤有次ほか『博物館経営論』12. pp.157-170,東京:雄山閣.
博物館はメディアそのもの
ここで博物館がどんな施設なのかを紹介したい。文化庁の示す博物館の概要としては「博物館は,資料収集・保存,調査研究,展示,教育普及といった活動を一体的に行う施設であり,実物資料を通じて人々の学習活動を支援する施設としても,重要な役割を果たしています。」とある。※4 つまり資料という物を通じて研究をし、その成果を展示、教育する施設なのだ。
博物館における専門職員である学芸員になるためには資格を取得する必要がある。その方法の一つとして、博物館大学で文部科学省令の定める博物館に関する科目の単位を修得し、大学を卒業して学士の学位を取得する方法がある。※5 その科目の一つとして博物館情報・メディア論がある。
例として放送大学で開講されている科目の講義概要を見てみると、「博物館は、展示による情報の発信のために、さまざまなメディアを利用する。一方で、博物館自体が、展示を通じて、さらには博物館全体として、社会に情報を発信するメディアそのものだとも言える。」とある。※6
水嶋(2012)も「報道機関と同様に,文化保存期間としての博物館も,歴史的・文化的情報を次世代に継承させる社会的意味があり,その意味では博物館機能全体がメディアということもできるであろう。」※7 と述べている。
博物館がメディアとしての役割をもち、広く社会に研究成果を発信する側面があるということがお分かりいただけるだろうか。
※4 文化庁「1.博物館の概要」(2023年6月30日閲覧)
※5 文化庁「博物館に関する科目について」(2023年6月30日閲覧)
※6 放送大学「博物館情報・メディア論 講義概要」(2023年6月30日閲覧)
※7 水島英治 2012「博物館メディアの役割と学習活用」『新博物館学教科書博物館学III——博物館情報・メディア論*博物館経営論』大堀哲・水島英治(編). pp.30.東京:学文社.
ミュージアムグッズもメディアなのかもしれない
能美栄子によると、ミュージアムショップが扱う商品は、館が所有するコレクションや、館のロゴ、建築デザイン等の財産を活用して開発した館独自の商品と、専門の卸売業者や他館のミュージアムショップ等から仕入れた既存の商品に大別できる。※8
なかでも筆者は前者の館独自の商品をオリジナルグッズとし、これ まで著書などで紹介をしてきた。なぜならそれは、筆者がオリジナルグッズのもつメディアとしての役割に着目しているからだ。
媒体の意を持つメディア。これをミュージアムグッズに置き換え、博物館のコンセプトを伝えるための手段として捉えていく。博物館を訪れる来館者にとっても、ミュージアムグッズは、博物館での経験や思い出を持ち帰るためのメディアになり得る。そう考えると、前述のオリジナルグッズは博物館の財産を生かして開発するため、博物館の魅力が表現されやすい商品といえるだろう。
拙著『ミュージアムグッズのチカラ』シリーズの執筆で、日本全国のミュージアムショップを駆け回ったが、本当に様々なオリジナルグッズが展開されており大変興味深かった。伝統工業とコラボレーションしていたり、地域の産業や民間企業と協同していたり、学芸員などの専門職員のアイデアを積極的に取り入れていたり、SNSでファンの意見を聞き積極的に取り入れていたり。オリジナルグッズを見れば、その博物館がどんな場所なのか、あるいは博物館のある地域はどんな場所なのか見えてくるようであった。
ここでいくつか事例を見てみよう。福岡市博物館は国宝である金印を所蔵しており、印面に刻まれた「漢委奴国王」の五文字は学校の教科書でも習うほど。拙著ではこの金印を気軽に楽しめる金印スタンプを紹介した。その後も新しいオリジナルグッズ開発に力を入れ、所蔵品などをモチーフとしたオリジナルアイシン グクッキーや、刀剣をイメージしたアロマパルファン(天然緑茶香水)「刀剣香」も登場した。いずれもSNSで評判となり、企画・製作に携わる福岡市文化芸術振興財団のミュージアムグッズ担当者の積極的な発信も功を奏していると見受けられる。若い層にも博物館に興味を持ってほしい!という想いが聞こえてきそうだ。
博物館に隣接する地域の学生がミュージアムグッズを開発するプロジェクトも散見される。岡山県高梁市にある高梁市成羽美術館では、岡山県立大学デザイン学部の大学生と協同し、毎年夏に数量限定のミュージアムグッズを販売している。セラミックやテキスタイルなど、学生の専門性と学芸員の専門性が融合した興味深い事例である。大阪府の堺市博物館でも関西大学人間健康学部、経済学部、大学院(人間健康研究科)の学生が企画したミュージアムグッズを販売。販売方法やデザインに至るまで現状分析を行い、その分析に基づいて企画提案が行われた。このように、地域の学生が授業やゼミの一環でミュージアムグッズ開発に取り組むことで、博物館が若者にはどのように見えているのかを映すメディアとしての機能があると考えられる。
もちろん、すべての博物館がオリジナルグッズを開発できるわけではない。人員、予算、場所の都合で開発が難しい場合もあり、公立博物館であれば儲けを出すことが良しとされない場合もある。そんな中でも、ミュージアムショップ全体の商品構成として、委託商品の力も借りながら工夫をしているところもある。また、グッズの販売が難しい博物館では無料配布という形で、缶バッジやポストカードを配布していることもある。
国内には様々な館種、規模の博物館がある。ミュージアムショップの運営形態も、博物館の直営なのか、別団体や企業に委託するのかなどにもよって異なる。また、ミュージアムグッズの開発者や開発プロセスも多様である。学芸員などの研究や資料に直接携わるスタッフが、どの程度開発に参加しているかも博物館によって様々である。
ぜひ、読者の皆さんも博物館に足を運んだら、ミュージアムグッズに着目してほしい。そして、そこから見える博物館の姿、伝わる魅力も含めて楽しんでみてはいかがだろうか。
※8 能美栄子 2002「ミュージアムショップとは?〜その役割と先進事例〜」『博物館研究』37(11),13.
参考文献等
『博物館学事典』倉田公裕監修(東京堂出版 1996年)
『新博物館学教科書博物館学III——博物館情報・メディア論*博物館経営論』大堀哲・水島英治編(学文社 2012年)
『博物館経営論』12 加藤有次ほか(雄山閣 1999年)
『博物館研究』37(日本博物館協会 2002年)
『ミュージアムグッズのチカラ』大澤夏美(国書刊行会 2021年)
文化庁「1.博物館の概要」
文化庁「博物館に関する科目について」
放送大学「博物館情報・メディア論 講義概要」