薄井研二

薄井研二

(写真:Gimas / shutterstock

データを活用すれば未来を予知できる?ビジネスパーソンたちによくある誤解

何のためにデータを活用する必要があるのかと問われると「データを駆使すれば未来予測ができるから」と答えてしまう人が少なくないのではないだろうか。実は、これはよくある誤解だ。現役のアナリストが解説する。

Updated by Kenji Usui on June, 12, 2023, 5:00 am JST

データは魔法の杖ではない

多くの人は、データの活用について大きな誤解をしています。ビジネスに関わる大きな問題を解決して自分たちに大きな利益をもたらすとか、未来予知ができてあわよくば自分たちに都合がいい方向へ未来を変えられるような、そんな魔法のような何かだと考えているようです。当たり前ですが、データを使ってもそんなおとぎ話のようなことは起きません。

それでは、データを活用することでどんな利益を得られるのでしょうか? データから得られる利益はもっと地道で現実的です。データを活用するということはシンプルに言ってしまえばゴールへ漸近するということです。ビジネスでは達成したい目標に向かって施策を打ち、そこへ少しずつ近づくものですが、データを利用することでその精度を高めることができます。

データを活用するときは、情報を収集、解析し、そこから得た知見や仮説をとおしてアクションをより良いものにするというOODAループやアジャイル的な運営をします。改善のスパイラルをまわすということです。このスパイラルにおいて情報を定量的に扱うことができるという点がデータを活用するメリットです。具体的に見ていきましょう。

意思決定に役に立たない情報を集めても意味がない

データの活用の基本はOODAループです。「Observe(観察)」、「Orient(状況判断、方向づけ)」、「Decide(意思決定)」、「Act(行動)」を1つのサイクルとして回します。必要に応じてステップを戻っても構いません。重要なことは良いアクションを行うために良い意思決定をすることです。逆算して意思決定のクオリティを上げるために必要な情報を集めて解析していきます。

さて、データの活用ではまず情報を収集し解析することから始まります。やみくもに情報を集めればよいわけではありません。前述したように、データを分析するということはよりよいアクションを起こすためにあり、つまり良い意思決定が目標となります。つまり意思決定に役に立たない情報を集めても意味がないのです。

意思決定に役に立つ情報とはどういうものでしょう? 抽象的に言うならば、意思決定に影響を及ぼす情報です。その内容によっては意思決定が変化しうるものと言ってもよいでしょう。逆にいえば、その情報があってもなくても何も変化がないのであれば、意思決定において価値は高くないということです。

さらに、情報の多くはそのままでは意思決定に役に立たないことがあります。集計や比較、可視化、もしくは統計学的な手法を通して意思決定に役に立つ形へ整形することが必要です。たとえば商品ごとの売上データや顧客の来訪頻度、購買までの時間などの情報は、それ単体では大きな意味をもちません。地域ごとに比較する、来訪頻度から月の顧客ごとの単価を出すなど紐づけたり比較したりすることで、意思決定に使えるような意味のある情報ができます。場合によっては、統計的な手法をもちいて数理モデルを構築することもあるでしょう。将来の変化を予測するためにシミュレーションをしたり、自分たちにとって重要な変数を探したりすることもあります。

意思決定を下す前には、意思決定を行えるだけの情報が集まっているのか確認することが必要です。不足があれば、情報の収集や解析を行います。もちろん無限に時間と金があるわけではありませんので、常に必要な情報がすべて揃うわけではありません。しかし、自分たちの意思決定においてクリティカルな情報が何なのか、優先度を考えることはできます。どんな情報があれば自分たちの考えが変わるのか検討しましょう。

必要な情報がそろったら意思決定を行い、それに伴うアクションを実行します。これでOODAループが1周完了しました。このようなループを必要に応じて何度も実行します。しかし、単純にループを回せばよいというものではありません。ゴールへにじりよるのはここからです。

データ分析をするメリットは、予実の精度が上がることにある

アクションを実行したら、情報の収集や解析がまた始まります。まず、やるべきは施策の効果を確認することです。自分たちの意思決定が正しかったのかどうか検証しましょう。不足があれば、自分たちの仮説のどこに誤りがあったのか分析します。施策の効果を経験や勘ではなく、データ分析で定量かつ客観的に評価を行えるという点がデータ分析の強みです。そして同時に、次の意思決定に必要な情報を集めます。施策の実行によって状況は変わっているはず。同じ情報を扱う場合でも、再び情報を収集する必要があります。

アクションの前と後、見積もりと実績の両方を定量かつ客観的に得られるということがデータ活用の強力なポイントです。勘や経験に基づく判断に比べて、施策の良し悪しを明確に理解し共有することができます。客観的であることで成功率の高い施策を選べるようになるだけでなく、定量的であることによってどの施策にどの程度投資すれば目的を達成することができるのか、量の判断も精緻になります。つまり、予実の精度が向上するのです。

このようにしてデータを使うことで、よりよい施策を選ぶこと、良い施策へ優先的に投資すること、目標達成のために妥当な投資の量を決めることが、これまでよりも容易になります。これこそが、データを活用することで得られる利益なのです。

もしあなたがデータ活用とは何かを発見することや予知だと思っているならば、その考えを捨てましょう。そして、目の前の問題を解決するためにデータがあったらもっとよい意思決定ができないかを検討すべきです。最初は上手くいかないでしょうし、時間がかかるかもしれません。しかし次はきっと今より上手くやれるはずです。