オンラインゲームを通じて敵対する地域の子どもをつなぐ
Games for Peaceというプロジェクト※1をご存知でしょうか。このプロジェクトは、マインクラフト※2などのオンラインゲームを通じて、イスラエルやパレスチナ、中東など、紛争に苦しむ地域の子どもたちが、普段は敵対している紛争相手の子どもたちとの間で、ゲームを通じた協力体験を共有できるようにすることを目的としています。
敵対の対象となる集団への偏見を減らすには、その集団の人と直接会うこと、つまり集団間の接触が重要だと指摘したのは、心理学分野では有名なオルポート氏という人です※3。このオルポート氏の理論は広く受け入れられ、実際に実践されてきました。2006年に、それまでの50年間に行われた500件以上の研究データが分析され、実際に集団間接触が集団間の偏見を減少させることが強く示されています※4。
しかし、紛争や緊張状態にある地域の子どもたちを直接会わせるのはなかなか難しいものです。そこで、Game for Peaceプロジェクトでは、オンラインゲームを通じてであれば、つまり自宅のコンピュータからなら、紛争や緊張状態にある地域の子どもたちを、安全性とプライバシーを確保しながら、つなげることができるのではないか、と考えたのです。
マインクラフトするだけで、 紛争関係を超えた友だちになれる?
しかし、直接会わないオンラインでの接触で、本当に偏見は減るのでしょうか? しかも、単にゲームをするだけで?
こうした疑問を解消するために、2021年、ハイファ大学のベナトフ氏らは、Game for Peaceプロジェクトと連携し、オンラインゲーム、具体的にはマインクラフトを一緒にプレイすることが、本当に紛争地域における偏見を減らすかを調べました※5。
ハイファ大学のあるハイファは、人口の9割がユダヤ系、残りがパレスチナ系という、イスラエルでは珍しい混合都市です。ところが、まさに研究実施中の2017年1月、ハイファに住むパレスチナ人がユダヤ人住民1人を殺害し、もう1人に重傷を負わせるという事件が起きたために、ユダヤ人とパレスチナ人の関係は非常に悪化していました。
参加者は、パレスチナ人とユダヤ人の小学6年生です。民族を超えて混合チームを作り、コンピュータを通じてチャットをしながら協力的にマインクラフトをプレイしてもらいました。それぞれ、自分たちの言語であるアラビア語とヘブライ語を使えば、自動的に翻訳されるようになっていたので、スムーズなコミュニケーションが可能でした。仲良くなってから、ユダヤ系の6年生が中心となってパレスチナ系の6年生を自分たちの小学校に招いたり、大会が終わったあとにはパレスチナ系の6年生がユダヤ系の6年生を自分たちの小学校に招いたりすることもできました。
民族を超えたチームでゲームをプレイした6年生は、途中で上記の悲しい事件があったにもかかわらず、相手の民族への偏見を大きく減らしていました。また、子どもたちは、相手の民族の子どもたちともっと一緒に遊びたいと思うようになっていたのです。そしてこれらの効果は、6ヶ月後も持続していました。一緒にマインクラフトをすることを通じ、彼らは紛争関係を超えた友情を築いていたのです。
Eコンタクトの社会的役割
ゲームに限らず、インターネットを通じた接触によって集団間の偏見を減らす取り組みは、エレクトニックコンタクト、略してEコンタクトと呼ばれています。EメールのEと同じですね。Eコンタクトは、オーストラリアの学校で、ムスリムとカソリックの子どもたちがチャットでやり取りすることで、相手への偏見を減らすという取り組みから始まりました※7。
2021年には、Eコンタクトであっても、それが協力的な文脈で行われた場合には、直接会うのと同程度に集団間の偏見を減らすことができることが報告されました※6。現在までに、たとえば、異性愛男性からの性的少数者に対する偏見緩和効果や※8,9、統合失調症の人へのスティグマ軽減効果※10,11が期待できることが示されてきています。
さまざまなテクノロジーが、紛争や偏見を超えて世界中の人々をつなげていけるのかもしれません。
参考文献
1. Games for Peace. https://www.gamesforpeace.org/.
2. MINECRAFT. https://www.minecraft.net/ja-jp.
3. Allport, G. W. The nature of prejudice. (Addison-Weasley, 1954).
4. Pettigrew, T. F. & Tropp, L. R. A meta-analytic test of intergroup contact theory. J. Pers. Soc. Psychol. 90, 751–783 (2006).
5. Benatov、 J. , Berger, R. & Tadmor, C. T. Gaming for peace: Virtual contact through cooperative video gaming increases children’s intergroup tolerance in the context of the Israeli–Palestinian conflict. J. Exp. Soc. Psychol. 92, 104065 (2021).
6. Imperato,C. , Schneider, B. H. , Caricati, L. , Amichai-Hamburger, Y. & Mancini, T. Allport meets internet: A meta-analytical investigation of online intergroup contact and prejudice reduction. Int. J. Intercult. Relat. 81, 131–141 (2021).
7. White, F. A. & Abu-Rayya, H. M. A dual identity-electronic contact (DIEC) experiment promoting short- and long-term intergroup harmony. J. Exp. Soc. Psychol. 48, 597–608 (2012).
8. Boccanfuso, E. , White, F. A. & Maunder, R. D. Reducing Transgender Stigma via an E-contact Intervention. Sex Roles 84, 326–336 (2021).
9. White, F. A. , Verrelli, S. , Maunder, R. D. & Kervinen, A. Using electronic contact to reduce homonegative attitudes, emotions, and behavioral intentions among heterosexual women and men: A contemporary extension of the contact hypothesis. J. Sex Res. 56, 1179–1191 (2019).
10. Maunder, R. D. , White, F. A. & Verrelli, S. Modern avenues for intergroup contact: Using E-contact and intergroup emotions to reduce stereotyping and social distancing against people with schizophrenia. Group Process. Intergroup Relat. 22, 947–963 (2019).
11. Rodríguez-Rivas, M. E. , Cangas, A. J. & Fuentes-Olavarría, D. Controlled Study of the Impact of a Virtual Program to Reduce Stigma Among University Students Toward People With Mental Disorders. Front. Psychiatry 12, 632252 (2021).