オマケがある方がケチだと思われる?
履歴書を書くときに、ちょっとした小さな資格を持っているのだけれど、これは書いた方がいいのか、書かない方がいいのか、と悩んだことのある方も多いのではないかと思います。英検1級ならいいけれど、英検3級なら書かない方がいいだろうか?
バージニア工科大学のウィーヴァー氏らは、2014年に『プレゼンターのパラドクス』というタイトルで論文を発表しました※1。プレゼンターというのは、要するに情報をプレゼンする人のことですので、履歴書を書く側、というように考えていただければ良いかと思います。この論文の内容は、プレゼンする側は実はプレゼンを受ける側の反応を読み違えてしまうんだよ、というものでした。
ウィーヴァー氏は、次のような実験をします。参加者(プレゼンター )には、自分が大学の奨学金担当者だと想像してもらいます。大学としては、奨学金を受け取った学生に、気前のよい奨学金だと思ってもらいたいのです。これからあなたには、1,750ドル(日本円で25万円弱)の奨学金だけを与えるか、1,750ドルの奨学金に、15ドル(約2,000円)の教科書代をプラスするか、どちらにするかを決めてもらいます。さて、あなたなら、どちらを選ぶでしょうか?
この実験では、参加者の64%は、15ドルの教科書代をプラスすることを選びました。多ければ多いほど気前がいいと思われるだろう、というわけです。さて、それでは、受け取った人はどう思うのでしょうか?
ウィーヴァー氏は、別の参加者に、1,750ドルの奨学金と、1,750ドルの奨学金+15ドルの教科書代を比べてもらい、それぞれどれくらい気前がいいと思うかを答えました。その結果、あらびっくり、15ドルの教科書代が含まれる方が、つまり金額としては多くもらえるはずの条件の方が、より気前が悪く、嬉しくないと感じるということがわかりました。かくして64%のプレゼンターは、良かれと思って15ドル足したのに、かえってネガティブな評価を受けてしまったのです。こうした現象を、ウィーヴァー氏らは、プレゼンターのパラドクスと呼んでいます。
少額しか渡さないのであれば、言葉だけの方がマシ
この効果は、さまざまな場面で見られます。ホテルのレビューを書いて、口頭でお礼を言われるだけのときはそれなりに「感謝された」と思えるのに、口頭でお礼を言われながら五円玉を渡されたら、すっかり感謝された気持ちが台無しになってしまいます。
デューク大学のリウ氏らによると、お礼のギフトには適切な量というものがあるようです※2。いつも通っているファッションブランドのSNSページに、結構な長さのレビューを書いて、そのブランドからお礼のメールが来たとします。このとき、5%オフの割引チケットがついてくると、お礼メールだけの時よりも、むしろ「感謝されていない」と感じてしまうらしいのですね。5%オフ。難しいところです。じゃあ10%オフならどうかというと、これがだいたい、お礼メールだけの時と同じくらい。そこから大きな割引率になるにつれて、感謝されているという気持ちはどんどん強くなっていくとのことです。つまり、お礼としてギフトを渡すなら、しっかりと渡した方がいい。少額しか渡さないのであれば、言葉だけの方がマシ、ということになります。
ちなみに、リウ氏らの研究では、少額でも感謝の気持ちを伝えるための、2つの方法が提案されていました。5%は5%でも、「1%オフから5%オフまでしか選択肢がない中から、なんと最大の5%を選んだんですよ!」という見せ方をするという方法がひとつ、少額を「あなたに差し上げます」ではなく、「あなたの代わりに慈善事業に寄付しました」と伝える方法がひとつ。ただし、いずれにしてもただ感謝を言葉で伝えるのと同じくらいの効果しかなかったそうです。
ネガティブ情報は小さなネガティブとともに
さて、このプレゼンターのパラドクス、ネガティブな情報のときにも起こるということが示されています。先ほど紹介したウィーヴァー氏は、政府職員に協力してもらい、「高速道路のポイ捨てを減らすにはどちらの方が効果的だと思うか」という質問をしました。一つは、750ドル(約10万円)の罰金のみ。もう一つは、750ドルの罰金と2時間の社会奉仕。さあどっち?
この場合もやはり、86%の政府職員が「750ドルの罰金と2時間の社会奉仕」を選びました。その方が、厳しい罰だと考えたのですね。ところが、一方で自分が運転する立場だと想像した大学生たちは、2時間の社会奉仕がついた方をむしろより軽い罰だと感じていることが示されました。
わかります。大学生の方が変ですよね。プレゼンターである政府職員の方が正しい。しかし、運転する人たちがより「厳しい」と感じた、750ドルのみの罰則の方が、ポイ捨てを減らす罰則としては、より効果的と言うしかありません。
この効果は、さまざまなリスクの呈示においても大きな効果を持っています。たとえば薬の副作用として、発作の可能性を高める薬と、発作の可能性プラス鼻詰まりや疲労感も高める薬、どちらがリスキーでしょうか? 客観的に言えば、2番目の薬の方がより多くの副作用の可能性があります。しかし、実は2番目の薬の方が、リスクが小さいと思われてしまうというのです※3。つまり、より正確にリスクを理解してもらおうと、小さなリスクまでしっかりと紹介すると、なぜか逆に、「なるほど安全な薬だ」と思われてしまうということになります。病院で副作用を説明されたときには、軽い副作用に判断を惑わされないようにしないといけません。
これは、たとえば禁煙のメッセージはどういうふうにするのが効果的か、という問題にもつながってきます。ガンや脳卒中について書いてあるだけならリスクが 大きいと思われるところ、シワや歯周病についても追加で書くと、かえってリスクが小さいと思われてしまいます※3。しかし政策立案者の側に立つと、シワや歯周病についても書いた方がより禁煙を促すことになるだろうと誤って考えてしまうのです※4。ビジネスや政策立案という観点からだけではなく、公衆衛生という観点からも、プレゼンターのパラドクスは、重要な問題になると思われます。
これを応用すると、たとえば大きな失敗をしでかしてしまったときは、小さな失敗についても一緒に報告すると良いかもしれません。「おかーさん、おねしょしちゃった!あと、お茶もこぼしちゃった!」
トータルではなく平均で評価される
さて、最後になりますが、みなさんは書籍のタイトルやオンライン記事で、「○○すべき10の理由」というようなタイトルをご覧になったことがあるかもしれません。ここまで読んでこられた方はピンときたかもしれませんね。前述のウィーバー氏は、別の論文で、「あなたが○○をすべき10の理由」というようなやり方は、相手に○○をやらせたいのであれば、むしろ逆効果だよという報告もしています※4。
ネバダ州は、2012年に若者を投票に向かわせるため、「若者が投票に行くべき10の理由」というキャンペーンを実施しました。ウィーヴァー氏は、10の理由を提示するよりも、その中から厳選した強力な理由3つ(「若者は誰よりも長く結果を背負って生きていくのだから、選挙で得るものも失うものも一番多い」など)だけを読ませた方が、投票する気持ちは強くなるだろうと予測しました。そしてやはり、オリジナ ルの10の理由全部を読んだ若者よりも、厳選された3つの理由だけを読んだ若者の方が、投票を重要だと感じ、投票に行こうと考えるようになっていました。
「運動をすべき10の理由」、「○○大学に行くべき10の理由」など、他のテーマでも同様の結果が得られています。ウィーヴァー氏は、説得の効果が平均化されてしまうために、このような結果になっているのだと述べています。「多ければ多いほどいいだろう」という戦略が、全体の説得力の平均値を押し下げてしまい、かえって説得力を落としてしまうのだ、というわけです。
さて、あなたが履歴書を書いているときに、ちょっとした資格情報を加えるべきかどうか、と迷ったら、全体の平均を下げるような情報かどうかを考えるのが良いかもしれません。全体的に素晴らしい履歴書なのに、英検3級と書いては、印象が下がってしまうかもしれませんからね。
なお、英検3級という例を本文中で出したのは、私自身が運転免許の他に持っている資格が、英検3級だけだからです。……あ、ほら、ダメですよ。評価を下げないでくださいね!
参考文献
1. Weaver、 K., Garcia、 S. M. & Schwarz、 N. The Presenter’s Paradox. J. Consum. Res. 39、 445–460 (2012).
2. Liu、 P. J. , Lamberton, C. & Haws、 K. L. Should Firms Use Small Financial Benefits to Express Appreciation to Consumers? Understanding and Avoiding Trivialization Effects. J. Mark. 79, 74–90 (2015).
3. Khan、 U. & Kupor, D. M. Risk (Mis)Perception: When Greater Risk Reduces Risk Valuation. J. Consum. Res. 43、 769–786 (2016).
4. Weaver, K. , Hock, S. J. & Garcia, S. M. “Top 10” reasons: When adding persuasive arguments reduces persuasion. Mark. Lett. 27, 27–38 (2016).