――DXの必要性が様々な場面で説かれています。DXの必要性を語るとき、日本が置かれた状況をどう見ていますか。
佐々木氏:AOSグループのAOSデータでは、産業に合わせたDXプラットフォームをAOS IDXとして提供しています。もちろん、このAOS IDXをプラットフォームとして導入したからといって、「明日からDXできる」というわけではありません。それでもDX推進に真剣に取り組むとしたら、AOS IDXのようなDXプラットフォームを使って2025年までにすべてのシステムを刷新しないとだめだと考えています。
経済産業省は、ITシステムに「2025年の崖」が到来すると指摘しています。複雑化、老朽化、さらにブラックボックス化した既存ITシステムにより、国際競争への遅れや経済停滞が生じ、崖に落ちるというのです。あと3年です。崖に落ちない方法を考えなければなりません。
その方法がDXです。しかし、DXに向けてこれからシステムインテグレーション(SI)していたら間に合いません。崖が到来するのは、これまで各社がてんでバラバラにカスタマイズしたITシステムを発注し、それをITベンダーが作り上げていたからです。日本の全産業は個別にITシステムを使ってきているので、世界に目を向けたメガプラットフォームとは戦えないのです。
「失われた30年は、ITをうまく使いこなせなかったことに起因します。」「2025年の崖に落ちるからITシステムを見直します。」いずれも総論としては正しいです。でも実際にどうするかの答えは提示していません。今使っているITシステムを使い続けたら未来がないわけです。そして全産業でどのように刷新するかも考えなければなりません。そこには即日導入でき、カスタマイズしないで使えるSaaS(Software as a Service)形式のソリューションしか答えはないと考えています。だからこそAOSグループでは、産業別のDXソリューションをSaaS形式で提供しているのです。
データの費用対効果が合わない
――DXには、「データ」が不可欠です。データをどのように取り扱えば良いでしょう。
佐々木氏:DXはデジタルトランスフォーメーションであり、デジタル改革などと呼ばれます。それでは改革、革新って何でしょう。答えはデータにあります。データを活用することがDXの改革や革新を実現する鍵を握ります。
多くの企業では、DXを推進するためにデータを活用しようとしています。でもデータ活用がうまくできないことがほとんどです。なぜかというと、データはそのままでは使えないからです。利用できるようにするためには、加工しないといけないんですね。それには手間暇がかかります。すなわちお金がかかるわけです。データ活用するぞ!と意気込んでも、途中でギブアップして「失敗」と言って終わってしまいます。
その具体例が、AI(人工知能)でしょう。世の中でAIを活用したプロジェクトのほとんどは失敗に終わっていると感じています。PoC(概念実証)などでちょっと試してみるとそれなりに成果が上がるように動きます。これなら使えると思って、ある程度の量のデータを活用しようとすると、費用対効果が合わなくなって失敗に終わってしまうのです。AIのプロジェクトがほとんど失敗するのは、AIが使えないということではなく、集めたデータを加工するコストが見合わないからです。今のやり方では動かすことはできても、加工コストがかさん で儲からないのですね。AIが見せるバラ色の未来と現実とのギャップは、誰かが埋めてあげないといけないと感じています。
――データのコストを下げるにはどうしたらいいとお考えですか。
佐々木氏:効率を上げるということです。そのためにはデータを集約する必要があります。同じようなデータがたくさんあれば、加工の効率が上がります。自動化ツールを使ったとしても、データの量が多いほど効率が上がり、コストが下がります。「大量のデータを処理した方が良い」ということを、皆が理解する必要があります。
それでは、どうしたら大量のデータを集められるでしょうか。それは簡単です。データを選別せずに、クラウドに上げればいいわけです。様々なデータがクラウドに集まることで、大量のデータの母集団が形成でき、そこから必要に応じて低コストで加工していけばいいのです。
大量のデータをどこに保管するか
――データを大量に集めることで、データ加工のコストを下げられるとしても、どこに保管したらいいのでしょう。
佐々木氏:大量のデータ、それも生成されたフルデータをどこにバックアップするかという壁にまずぶつかります。フルデータをクラウドバックアップできれば、そのデータを活用すればいいのですが、これまでにフルデータのクラウドバックアップに成功した企業はほとんどありません。Dropboxもほとんどのユーザーは無料で容量制限がありますから、フルデータのバックアップはできません。AppleのiCloudも、iPhoneのデータですらフルにバックアップするユーザーは少なく、選別している状況です。MicrosoftのOneDriveも同様です。理想は全産業の全データをクラウドにアップロードして、そのフルデータを活用できる環境を整えることです。難しいですが、やらなければならない。これが第1ステップです。
第2ステップは、クラウドに上がったデータは誰かと共有することでさらに活用の幅が広がります。それも、安全に共有することが必須です。フルデータの中には、機密情報も個人情報も含まれていますから、安全性は担保しないといけません。
すなわち、第1ステップと第2ステップを合わせると、フルデータをクラウドバックアップして、そのデータを安全に共有可能なエンジンが必要ということです。AOSはフルバックアップと安全な共有のサービスを提供してきましたから、強みを持っています。これをデータ活用、その先のDXのコアのエンジンに使ってもらえばいいわけです。
――フルデータをクラウドにアップロードした上で、DXに向けたデータ活用にはどのような仕組みが必要でしょうか。
佐々木氏:それぞれの産業によってやりたいことが違います。データの中身が違うことが最大の要因です。医療ならば医療データ、財務なら会計 データ、法務なら契約のデータといった具合です。これをすべてまとめても使い勝手は必ずしも良くなりませんから、産業別のDXソリューションを作って提供することにしました。それがAOS IDXのコンセプトで、産業別にデータをクラウドに上げられる環境を整えたのです。アプリ連携のコラボブラットフォームで必要な機能をすぐに使えるSaaS形式のソリューションです。
――フルデータのクラウドバックアップをすると、データ活用以外にもメリットは得られますか。
佐々木氏:フルデータをクラウドバックアップすることの意義は、データの有効活用という側面だけではありません。ウイルス対策ソフトや境界型セキュリティを導入していても、データを利用できなくして身代金を要求するランサムウェアは防げません。どうしたらいいかというと、データをバックアップしておくことです。フルデータがクラウドバックアップしてあれば、ランサムウェアによってデータにアクセスできなくなっても、バックアップしてあるデータから業務を継続できます。
誰もがランサムウェアの攻撃を受けるわけではありませんが、日本のランサムウェアの防御率は非常に低く、一方で身代金を支払う率は高いことが明らかになっています。日本がいいカモということがより知られれば、さらに日本企業がランサムウェアに狙われる可能性は高まるでしょう。誰かがデータを守ってくれると思いたいですが、誰も守ってくれないことも事実です。早急に手を打たないといけません。
2025年の崖に落ちていかないためのソリューション
――データ活用の側面でも、セ キュリティの側面でも、すべてのデータを安全な場所に保管しておくことが必要ということですね。
佐々木氏:政府やメディアが危機だけをあおっても、具体的な対応にはつながりません。課題を解決するためのソリューションが必要だと考えています。その1つとして、AOSデータではデータを安全に保存でき、アプリ連携のコラボプラットフォームで各業界が求めるDXソリューションを提供するAOS IDXを提案しているわけです。日本が2025年の崖に落ちていかないためのソリューションです。
製造業のDXに向けた「AOS IndustryDX」のクラウドプラットフォームは、 Neutrix Cloud Japanと提携して、Neutrix Cloudのクラウドストレージ基盤にデータを保管します。これにより、一段とストレージとしての信頼性を高めることが可能になります。
フルデータをバックアップして、日本を支える各産業のDXを推進するといった取り組みは、既得権益やしがらみがある人にはできないと考えています。新しい枠組みを作り、既得権益のしがらみのない誰かがやって見せないといけないでしょう。AOSグループ単体でできることではありませんから、日本が生き残るために、志を同じくする企業と手を組んでオールジャパンで取り組んでいく必要があると思います。
(聞き手・文 岩元直久)