紙のカレンダーか、デジタルカレンダーか、さあどっち?
みなさんスケジュール管理はどうされていますか? 紙のカレンダーに書き込むタイプですか? スマホのアプリで管理していますか? パソコンを使うタイプですか?
オーストラリアで2018年に行われた調査によると、18歳から64歳の男女1000人のうち、46.7%の人がスマホカレンダー派、23.3%の人がOutlookなどのパソコンカレンダー派、28.3%が手帳などの紙カレンダー派でした※1。「その他」と回答したのはわずか1.8%で、その人たちにスケジュール管理に使っているものを明記してもらったところ、「脳」、「頭」、「記憶」などの記憶力頼りの回答に加え、「妻」という答えもあったそうです。妻!
ちなみに、2016年に行われた調査もおおむね同じ結果だったようで、約半分がスマホカレンダーで スケジュール管理しており、4分の1の人がパソコン、残りの4分の1の人が紙という割合だったそうです。みなさまはいかがでしょうか。
スケジュールを実行できるのは紙のカレンダー
さて、人によってスケジュール管理に使うものが違うというのがわかったところで、スケジュール管理にどの媒体を使うかによって、立てられたスケジュールの質が違うと言ったらびっくりされるでしょうか。
紙のカレンダーを使うとスマホでカレンダーを使うよりも質の高いスケジュールを立てられるのでは? と考えたのは、ドレクセル大学の黄氏らです※2。ええー? という感じですよね。なんでそんなことになるのでしょうか。
スマホのカレンダーアプリの場合、個々の予定がそれほど細かく表示されないのはご存知の通りです。また、予定を入れるときには画面にその予定だけが表示され、たいていの場合、他の予定がどうなっていたかは見えない状態で予定を入れることになります。一方、紙のカレンダーは、月の予定、あるいは週の予定が時間までセットで一覧できるようになっていて、いやでも他の予定を確認しながら予定を書き入れることになります。
つまり、スマホカレンダーでは「その予定」だけに焦点が当たるけれど、紙のカレンダーでは「スケジュール全体」に注意を向けることができるのではないか、スケジュール全体に対して「この予定」を入れるのが適切かを判断しながら書き込むので、質の高いスケジュールを立てられるのではないか……というわけです。さて、結果はどうだったでしょうか。
黄氏の実験では、参加者に2週間分のスケジ ュールを立ててもらいました。このとき、参加者の半分は実験者から渡された紙のカレンダーを、残りの半分は自分のスマホのカレンダーアプリを使いました。参加者である大学生には、まず、現在すでに決まっている予定をすべてカレンダーに記入してもらいます。続いて、カレンダーの空き時間に2週間分の勉強と余暇の予定を入れてもらいました。
スケジュールを立てるときに使った媒体が紙かスマホか。この実験での条件の違いは、たったこれだけです。これだけなのですが、紙のカレンダーで予定を入れた参加者が52.5%の予定を実行できたのに対し、スマホアプリで予定を入れた参加者では実行できた予定は32.6%でした。つまり、紙のカレンダーで立てたスケジュールの方が、実現可能性が高かったのです。
この効果は、オンラインで募集した一般参加者でも見られています。こちらの実験では、参加者は5日間でなにかを創作するスケジュールを立て、できた創作物を写真に撮って5日以内に実験者に送信するという課題に取り組みました。どのくらいの人が自分の立てたスケジュールを実行できたでしょうか? 大学生の場合と同じく、5日後に実験者のもとに写真が届いていたのは、紙カレンダーの場合は42.6%だったのに対し、スマホアプリカレンダーの場合は30.8%でした。紙カレンダー、おそるべし。
紙のカレンダーで立てたスケジュールは質が高い
これはきっと紙のカレンダーで立てたスケジュールの方が質が高いからだろうと考えた黄氏は、他の参加者に、立てられたスケジュールの質を評価してもらいました。どれくらい具体的か、詳細か、予定の 間の優先順位がはっきりしているか、現実的か、質が高いか、実現可能性が高いか、などについての評価は、予想通り、紙で立てたスケジュールの方が高くなっていました。
では、スマホのカレンダーアプリでスケジュールを管理するのはやめた方がいいのでしょうか。こんなに便利なのに?
すでに述べたとおり、紙のカレンダーが優れているのは、月単位、週単位で表示される性質のために、否応なくスケジュール全体を考えながら予定を立てることになるからだと考えられます。ということで、スマホのカレンダーアプリでスケジュールを立てるときでも、「予定同士の関係や、すでに登録されている予定との関係を考えながら」予定を入れるよう指示された参加者では、(紙カレンダーで立てたスケジュールほどではないものの)立てたスケジュールの質が向上していたのでした。つまり、スマホアプリを使うなら、他の予定についてもしっかりと考えながら予定を入れていった方が良いということになります。
ところでそうなると、「脳」、「頭」、「記憶」派の人たちはどうなるのでしょう。スケジュール全体を頭の中で見渡すなんて至難の業ですから、質の高いスケジュールを立てるのはわりと大変かもしれません。「妻」を使ってスケジュール管理をしている人はなおさらです。
一週間は月曜日から始めましょう!
カレンダーといえばもう一つ、非常に重要な論点があります。それは、カレンダーは日曜始まりか、それとも月曜始まりか、という問題です。我が家は私と子どもが月曜始まり派、夫が日曜始まり派であるため、「来週の日曜日」という表現が「次の日曜日」を指すか「次の次の日曜日」を指すかの認識がすれ違い、何度もトラブルが生じてしまいました。おかげで今ではこの表現は厳しく禁止されています。
カールトン大学のデヴィーデンコ氏らは、日曜始まりのカレンダーと月曜始まりのカレンダーではどちらが目標達成に有効かを調べています※3。研究参加者は、日曜日か月曜日のどちらかに実験室に呼ばれました。デヴィーデンコ氏は、参加者に「今やろうとしている3つのこと」を挙げてもらいます。たとえばある参加者の回答が、「病院に電話して検査を受けること」、「家を掃除すること」、「新しい服を買うこと」だったとしましょう。参加者がこの3つの目標を「いますぐやろう!」という気持ちは、日曜日と月曜日、どちらが強いでしょうか?
月曜始まり派にとっては当然ですが、月曜日に研究に参加した人の方が、日曜日に参加した人よりも、行動へのモチベーションが高くなっていました。なんなら他の研究でも、「ダイエット」という単語のオンライン検索のピークが月曜日だということが示されていたりして※4、月曜は何かを始める日だと思われていそうだということがわかっています。
問題はカレンダーです。デヴィーデンコ氏は、カレンダーの効果ももちろん調べています。研究参加者たちの目の前には、Googleカレンダーを印刷した紙が置かれていました。半分の参加者の手元のカレンダーは日曜始まりで、残りの半分の参加者は月曜始まりです。参加者が3つの目標についてモチベーションの高さを質問されたのは、このカレンダー上の当日の日付に丸をつけたあとだったのでした。