井上顧基

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(写真:Kaspars Grinvalds / shutterstock

AIベンダーを活用しきれず、PoCを失敗させていないか?事業会社が回避すべきアンチパターン

かつてよりも容易に行われるようになったPoCだが、残念ながら失敗に終わってしまうこともある。しかし実は失敗に終わるケースにはパターンがあり、事前に知っておけばある程度の回避が可能だ。ここでは委託する側が陥りがちなアンチパターンを紹介しよう。

Updated by Koki Inoue on February, 20, 2024, 5:30 am JST

アンチパターン1:AIベンダー側に開発力が不足している

AI開発を専門としない人々には全てのAIベンダーが高度な技術力を持つように見えるかもしれないが、実際はそうではない。AI開発には、深いドメイン知識に加えて、高度な開発スキルが必須である。開発力が不足している、または経験が浅いAIベンダーは、プロジェクトの初期段階で間違ったアプローチを取り、失敗に至ることが多い。そのため、AIベンダーを選定する際には、そのドメインでの案件経験を確認することが重要である。

例えば、私が専門とする放射線分野では、DICOM形式と呼ばれるデータを適切に前処理することが必要であり、この前処理を怠ると、どんなに大きなAIモデルを使用しても、性能の大幅な向上は期待できないことが多い。ドメイン知識の理解がいかに重要かがわかる。

また、プログラミングスキルなどの技術力不足によって失敗するケースも多い。開発メンバーが経験不足であることが一因として挙げられる。技術力の有無でエンジニアの生産性は大きく異なる。技術力がないエンジニアをアサインされてしまうと、開発費用が増加する一方で、成果物が生まれないことがある。技術力を確認するためには、最新のAI技術トレンドや技術的な質問をしてベンダーの技術力を見極めてみよう。

アンチパターン2:AIベンダーに案件を全て任せきりにする

継続的な取引をしているAIベンダーに対しては案件を任せてしまうことがあるが、基本的に丸投げはリスクが高い。AIベンダーはそのドメインの専門家ではないため、課題を明確にする必要がある。

これを怠ると、AIベンダーが課題を特定するために多大な時間を要し、結果的に開発費用が増加する。さらに、不明瞭な課題から生まれた成果物は期待と異なるものとなり、トラブルの原因となることがある。このような状況を避けるためには、ドメイン知識や課題について依頼者自身が把握し、AIに関する知識もある程度身につけることが望ましい。

アンチパターン3: 学習データが不足している

生成AIを利用したプロジェクトであっても、評価のためには一定のデータが必要である。データがない状態でプロジェクトを開始することもあるが、その場合は、AIが膨大なデータから正しい条件に基づいて「正解」を選ぶことができるかどうか確認することが重要である。多くのAI開発ではドメイン知識が必要とされ、どのようなデータが必要かを明確にすることが求められる。データなしにはモデルの構築は不可能であり、生成AIであっても評価用のデータは必須である。したがって、必要なデータについて理解を深め、準備することが大切である。

アンチパターン4:AIベンダーの工数を無駄遣いする

AIベンダーに報告資料の作成やマイクロマネジメントまで依頼すると、開発と直接関係ない作業にAIベンダーが多くの時間を費やし、本来の開発作業がおろそかになることがある。このような状況におかれると、PoCの工程の少なくない時間を要件定義のヒアリングや最終報告資料の作成に費やしてしまい、実際の開発期間が短くなる。

これを防ぐためには、マイクロマネジメントを避け、会議の回数を減らし、開発に関係ない業務は依頼者側で対応することが求められる。これにより、高品質のAIモデルの開発に集中し、プロジェクトの成功を目指すことができる。

このようにAIベンダーに委託してPoCを実行するときは、委託する事業者側が一定のリテラシーを有する必要がある。上記のような状況を回避し、PoCを成功へと導いていこう。

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