ステップを踏めば、DXは必ずうまくいく
「DX(デジタルトランスフォーメーション)は敷居が高い、なかなか始められないと言われますが、ステップを踏んでいけば必ず上手くいきます」。こう語るのはバックアップソフトウェアで世界1位のシェアを持っているVeeam Softwareでクラウドビジネス本部 本部長を務める杉山達朗氏。DXによる企業価値の最大化は、データ活用の環境をステップバイステップで構築すれば実現できるとの指摘だ。
Veeam Softwareはバックアップソフトを提供する企業だが、杉山氏はこの講演では「プロダクトの紹介はしません」と宣言する。なぜかというと、杉山氏が率いるクラウドビジネス本部では、サービスプロバイダーと手を組んでバックアップのサービス基盤を提供しているからだという。「Veeam Softwareのバックアップソフトを使いたいと思っても、ストレージやサーバーを構築することが難しいケースもあります。コロナ禍の半導体不足で購入でき ないこともありました。自社で導入する代わりに、サービス基盤があればそれを使いたいというユーザーは少なくありません」(杉山氏)。少子高齢化や働き手不足もこうした環境に追い打ちをかけ、サービスへの要求が高まっているというのだ。
DXが日本の成長に不可欠
それでは、Veeam Softwareのバックアップ機能をサービスとして提供することと、DXとの関連はどのようになっているのだろうか。「パーソル総合研究所のデータによると2030年には644万人の労働人口が不足すると予測されています。これは日々の生活にもかかわることで、特に人手が必要なサービス業、医療福祉などに大きな影響があります。情報通信業界でも31万人の不足が予測されています」と杉山氏は今後の見通しを語る。
人手不足への日本の政府の対応について杉山氏は「ざっくりいうと、少ない人数で経済を伸ばすという考えです」と手厳しい。少ない人数でもっと稼げということであり、そんなことができるのかと感じるところだ。一方で杉山氏は、「これを『できる!』にしないと日本がダメになってしまいます。『できる!』にするのがDXなのです。少子高齢化で競争力をつけるためのドライバー、成長のエンジンがDXです」と希望を示す。
2021年のIPA(情報処理推進機構)のデータによれば、日本でDXに取り組んでいる企業は4割弱であるのに対して、米国は7割とかなり差がついている。しかし悲観する必要はないというのが杉山氏の見立てだ。「現状ではDXに取り組んでいる企業のほうがまだマイノリティです。何から初めていいかわからない企業も多い状況ですから、着手していないからといって悲観する必要はありません」(杉山氏)。
もちろん、DXをいきなり完成形に持ち込んで、少子高齢化や人手不足の問題を一気に解決するのは難しい。杉山氏は「DXはフェーズで考えるといいでしょう」と語る。
フェーズ1は、データをバックアップしておくこと。「データはDXの原材料です。ランサムウェアが流行っている昨今、まったくバックアップしていない会社はないだろうけれど、前提としてバックアップすることが不可欠です」(杉山氏)。
フェーズ2は、データハブやデータレイクにバックアップを集約すること。せっかくバックアップを取っていても、データが集まっていないと何も始まらない。「どこに何があるかわからないとDXは始められません。棚卸しやデータ探しから始まることになります。まず、バックアップを1カ所に集約しておくことで、DXの準備が進みます」と杉山氏。
さらにフェーズ3では特定の部門やニーズのためにDXのプロジェクトを作って活用できるように、必要なデータセットをデータウェアハウスに移行する。「フェーズ3までのDXを明日から実践すると言っても難しいですが、DXの原材料であるデータを適切に管理・集約するフェーズ2を始めませんか?と提案しています」(杉山氏)。
最終的にデータウェアハウスにデータを格納するならば、最初からデータウェアハウスを構築してしまう方法もあるが、フェーズ2を経由するのはなぜだろうか。杉山氏は、「データウェアハウスは高コストだからです。データウェアハウスの最大手のスノーフレークを利用すると、10TBのデータで年間数百万円のコストになります。いつ使うかわか らないデータをデータウェアハウスに置いておくのはコストパフォーマンスがよくありません」と説明する。
そこで杉山氏は、1つの方法を提示する。フェーズ2でバックアップデータをデータハブに集約するのであれば、「クラウドストレージを提供するNeutrix Cloud Japan(以下、NCJ)のオブジェクトストレージの場合に、10TBを年間30万円程で保存できます。コストをかけずにデータハブへのデータ集約が可能です」(杉山氏)。Veeam Softwareのクラウドビジネス本部が、バックアップ機能をサービスとして提供する理由がここにある。パートナーであるNCJのオブジェクトストレージを使って、バックアップデータを集約できる環境を低廉なサービスとして用意できるからだ。
DXで日本を豊かにする
DXの基盤を構築してデータを活用した事業や経営を推進することで、少子高齢化に対する効率向上やコスト削減に向けた生産性向上の実現が可能になる。もちろんこれらは重要だが、データ活用やDXにはさらなる可能性があると杉山氏は語る。「データの二次活用により新しい価値を創出できるでしょう。世界に対して輸出できるテクノロジーやノウハウを作っていけるのではないかと思います。DXで日本を救う、DXで日本を豊かにすることができるでしょう」。
DXで新たな価値を創出し、内需だけでなく輸出にもつながる分野として、杉山氏は4つの分野を指摘する。「1つはヘルスケア。日本は健康保険制度がしっかりしていて、健康診断も定期的に受診している人がほとんどです。すなわち医療データを多く持っていて、分析から病気の早期発見、健康管理などの価値を創出できます」。
2つ目が自動車分野で、自動車には多くのセンサーが搭載されていて、運転中などのデータを大量に使うことで自動車のソフトウェア化や自動運転化に貢献できる。3つ目が農業分野で、センサーとITを使ったスマート農業の推進などにより効率的な農業生産が実現できる。海外への技術展開だけでなく食料自給率の向上にもつながる取り組みになる。
最後が、「宇宙分野です。日本はロケットを打ちやすい土地柄にあります。宇宙航空研究開発機構(JAXA)だけでなく民間もロケットを飛ばすようになり、多くのデータが集まります。データをAI分析して打ち上げの成功率を向上させれば、宇宙からのスマート農業の解析など多方面の用途に生かせるでしょう」(杉山氏)。
これらのDXの成果を刈り取るためにも、データをまずは守り、そのデータを生かすことが不可欠になる。バックアップデータを集約するステップに取り組むことが、日本を豊かにするという壮大なDXの成果への第一歩になるのだ。
(文:岩元直久)
本稿は「Democratic Data Day Autumn 2023 / 真にデータを守り、活用する方法 データ駆動型社会に潜むトラップを回避せよ」の講演内容を書き起こしたものです。