価値観が似ている人ほど魅力的?
あなたの仲の良い人を思い浮かべてください。友だちでも、同僚でも、配偶者でも、家族の誰かでも構いません。さて、その人たちは、あなたと同じ価値観を持っていますか?それともちょっと違った価値観を持っていて、それが意外と仲良しの秘訣だったりするでしょうか?
私たちが自分と似た価値観を持った人に惹かれるのか、それとも、自分とは違った価値観を持った人に惹かれるのか。これについては、実は古くから研究があります。
テキサス大学のバーン氏らは、1965年に、自分と価値観が一致している他者ほど魅力的に感じられるという研究を発表しました※1。バーン氏は、まず参加者にいくつかのトピックについて自分の価値観を報告させます。トピックは幅広く、SF、ガーデニングといっ た個人的な趣味から、福祉、子どもの躾のあり方といった社会的な価値観まで様々でした。
続いて、他の参加者が同じ価値観について答えた回答用紙を見て、その参加者をどれくらい好きかについて答えさせます。すると、他の参加者の価値観と自分の価値観が一致していれば一致しているほど、好感度がどんどん高くなっていたのでした。心理学ではこの現象を「態度の類似性効果」と呼んでいます。私たちは、自分と多くの面で価値観が似ている人を好きになるようです。
嫌いなものの共有より、好きなものの共有
しかし、どんな価値観でも共有してさえいればいいのでしょうか?たとえば個人的な価値観よりも社会的な価値観の方がそれを共有している意味が大きいというように、価値観の中でも共有する効果が大きな価値観と、そうでもない価値観があるのでしょうか?
ケルン大学のゾーン氏らは、好きなものが自分と一緒の相手と、嫌いなものが一緒の相手の、どちらに好意を持つかを調べました。ゾーン氏は、参加者に、映画、ミュージシャン、余暇の過ごし方、食べ物、本や雑誌、飲み物、有名人、国という8つの分野それぞれについて、好きなものを2つ、嫌いなものを2つ挙げてもらいました。そして、たとえば自分と同じ映画を好きな相手、自分と同じ映画を嫌いな相手、というふうに想像してもらい、その相手に対する好感度を回答してもらったのです。
その結果、自分と同じものを好きな相手に対する好意の方が、自分と嫌いなものが一緒の相手への好意よりも高くなっていました※2。つまり、好きの共有の方が、嫌いの共有よりも、人へ の好感度を強くするという結果だったのです。
他人に好かれたければ、好きなものについての価値観を表明する方がいい
関連して、なにかを好きだという場合、その「好きな理由」は似通っているけれども、嫌いだという場合にはさまざまな「嫌いな理由」があることが指摘されています※3。たとえば、『ローマの休日』という映画でいえば、好きな人はだいたい同じような理由でこの映画を好きである一方、嫌いな人は、主演のオードリー・ヘプバーンが嫌いだったり、作中音楽が嫌いだったり、監督が嫌いだったりと、理由がバラバラになるそうなのです。ある人がなにかを好きだという情報はその人についての情報を多く含んでいるけれど、なにかを嫌いだという情報だけではあまりその人についての情報が多くない。好きなものからの方が、その人の価値観が推測しやすいわけです。
また、そもそもの話、なにかを好きだと表明している人は、なにかを嫌いだと表明しているよりも好意的に見られやすいという研究※4もあります。なるほど。ネガティブなことを言っている人より、ポジティブなことを言っている人の方が、いい人に見えますからね。これらの研究をふまえると、他人からの好感度を高くするには、嫌いなものについての価値観を表明するよりも、好きなものについての価値観を表明する方がいい、と言えるのかもしれません。
レアな「好き」を共有しているほど好きになる
さて、好きなものが一致していれば、どんなものでもいいのでしょうか。それとも、好きなものの中でも、共有しているのが嬉しい「好き」と、そうでもない「好き」があるのでしょうか。
だんだん話が複雑になってきたな、とお思いかもしれません。わかります。ただしここでの結論はシンプルです。同じ「好き」でも、レアな「好き」を共有している人の方が、好ましく感じられるらしいのです。
たとえば、初対面の相手が同じ町の出身だとわかったとき、それが出身地から遠く離れた海外での話であれば、「なんという奇跡だろう!」と思うけれども、年末年始に実家に帰った近所のスーパーでのことなら、「ああ、そうなんだ」くらいで終わるでしょう。つまり、単になにかが共通しているという場合でも、それがレアであるほど共有の価値が高いわけです。
ケルン大学のアルヴェス氏は、実験を通じて、みんなが一般的に好きな映画や音楽への「好き」が一致している人よりも、誰もが好きというわけではない映画や音楽への「好き」が一致している人の方が、好感度が高くなることを示しました※5。
また、次の研究では、参加者自身がFacebookで「いいね」した投稿を確認させ、その中でも「いいね」数が少ない投稿、つまり自分はいいと思ったけれど他の多くの人からあまり注意を引かなかった投稿を「いいね」している誰かの方を、「いいね」数の多い投稿、つまり自分以外の多くの人も共通していいと思った投稿を「いいね」した誰かよりも、好ましく感じるという結果も報告しています。
オンラインデートで誰が選ばれるかを調べた研究でも結果は同じでした。レアな「好き」の方が、誰もが共有している「好き」よりも、その人に会ってみたいと感じさせていたのです。たしかにそういうところはありま すよね。レアな共通点の方が嬉しい。よくわかります。
ところで、私が夫と意気投合したのは、大雑把な位置情報を元にGoogle Earthでピラミッドを探したり、モンゴルでゲルを探したり、モアイ像を探したりして笑い転げたのがきっかけでした。こんなレアな「好き」を共有できる人はなかなか他にいないだろうと思っていたのですが、最近、息子からそんな気配を感じるようになってきました。果たして彼は誰かと「好き」の共有ができるのでしょうか。暖かく見守りたいと思います。
参考文献
※1. Byrne, D. & Nelson, D. Attraction as a linear function of proportion of positive reinforcements. J. Pers. Soc. Psychol. 1, 659–663 (1965).
※2. Zorn、 T. J. , Mata, A. & Alves, H. Attitude similarity and interpersonal liking: A dominance of positive over negative attitudes. J. Exp. Soc. Psychol. 100, 104281 (2022).
※3. Gershoff、 A. D. , Mukherjee, A. & Mukhopadhyay, A. Few Ways to Love, but Many Ways to Hate: Attribute Ambiguity and the Positivity Effect in Agent Evaluation. J. Consum. Res. 33, 499–505 (2006).
※4. Folkes, V. S. & Sears, D. O. Does everybody like a liker? J. Exp. Soc. Psychol. 13、 505–519 (1977).
※5. Alves, H. Sharing Rare Attitudes Attracts. Pers. Soc. Psychol. Bull. 44, 1270–1283 (2018).