ChatGPT流行の最大の要因は「わかりやすさ」
ChatGPT は2023年において話題の中心となり、日本でも新語・流行語大賞にノミネートされました。さらに開発元のOpenAI社におけるCEO追放騒動が連日報道されるなど、IT業界のみならず社会全体に今も大きな影響力を及ぼしています。
なぜこれほどまでにChatGPTは話題になったのでしょうか。IT業界では定期的にブームが起きており、ここ数年を振り返るとDX(デジタル・トランスフォーメーション)、メタバース、Web3などが話題になっています。しかしこれらは抽象的で実際に役立つイメージができないなどの問題があり、一般社会には浸透せずに限定的な話題に留まっていました。
対してChatGPTは「わかりやすい」「効果がすぐわかる」「仕事に使える品質」を実現しており、発表時から文章の代筆やプログラミングなどで人間に近い性能を誇っていました。そのおかげで利用者が増えて使い方などがSNSなどで共有され、さらに拡散するという正のサイクルによって利用者を増やし続けたのです。
日本における経済効果は40兆円
話題性のみならず、経済的な影響も見逃せません。既に企業においてChatGPTの導入が進んでおり、日本マイクロソフト社の発表では日本で560社、世界では1万1000社を突破したと発表しています。
今後、ChatGPTを含めた経済効果は日本国内において40兆円にのぼると試算されているほか、マッキンゼーによれば世界的には2030年までに2.6兆ドル(390兆円)から4.4兆ドル(660兆円)まで成長すると見込まれています。中でも影響を受ける業界としては、IT・ハイテク、金融、製薬・医療機器、教育が挙げられます。
企業の利用については、調査会社のガートナーが2026年には8割以上の企業が生成AIを活用すると推定しています。投資金額も拡大しており、マイクロソフトはOpenAI社において最大100億ドル(約1兆5000億円)の投資を発表、後発となったAmazonとGoogleは生成AIのスタートアップであるAnthropicにそれぞれ最大40億ドル(6000億円)と20億ドルの投資を表明しました。
雇用はAIよりも景気後退による影響が大きい
ではChatGPTや生成AIは、実際の仕事にどのような影響を与えていくのでしょうか。既にコンサルティング、プログラミング、クリエイティブ職において生成AIは実用化されており、情報収集と分析、プログラムの自動化、イラストや映像の生成などがAIへの代替を検討されています。いわばパソコンの画面上で行なわれる頭脳 労働をAIが担おうとしています。
一方でChatGPTや生成AIの導入によってすぐに人員削減やリストラが起きるとは考えにくく、アメリカのIT企業におけるエンジニアの解雇は起きているものの、そこには雇用流動性が高く転職が容易な背景があります。コンサルティングファームの人員削減も指摘されますが、雇用には景気後退への懸念や過去の大量採用の実績などが大きく影響するため、単純にAIによって仕事が奪われているとはいえません。クリエイティブ職においても求められる精度や品質に加えて、権利に関する問題も懸念されており、すぐに人間の代わりにAIが仕事を奪うと考えるのは早計です。一方で製薬会社ではコロナワクチンのmRNAの開発において、AIが利用されるなど成果を出しています。
実は、ChatGPTが活躍するのは製造業
ここで日本において従事者の多い製造業や建設業における影響を考えてみましょう。製造業や建設業は、工場や建設現場などに人間が入って作業を行うことが前提となっています。そのためコロナ禍においてリモートワークが推奨されている状況でも対応できる業務は限定的で、オフィスで行う事務手続きなどデスクワークに留まっていました。
ではChatGPTをはじめとしたAIの進化によって、工場や建設現場の業務はどのように変わるのでしょうか。当初は文章の代筆やアイデアの壁打ちなど人間との対話が中心だったChatGPTですが、その後画像を認識する目の役割が追加されました。これにより、品質確認や外観検査といった、人間が目視で判断していた異常を検知することができるようになります。ChatGPTは導入が比較的容易なので、工場や倉庫で決められた作業を行う産業用ロボットなどでの活用が期待できます。
しかしながら人間と同等以上の精度を出すためには、AIに学習させるデータの準備、費用対効果の考慮、既存設備との連携などの課題もあります。さらに工場の操業や人命など影響が大きい場面では安易に利用できないなど、課題が多いのも事実です。人手不足が指摘される工場や建設現場に加えて、運送や介護においてAIが活躍するのは将来への期待に留まっています。
それでも登場から1年足らずで現場で実感できるほどの影響が出始めており、2024年以降に本格的な普及が期待できるでしょう。