集めたデータを眺めているだけになっていないか
勘や経験だけではなくデータに基いた客観的な意思決定をおこなう「データドリブン」という考え方は、ビジネスの世界でも広く使われるようになりました。多くの企業ではデータ分析チームを組織し、データを意思決定に活かそうとしています。しかし、本当にデータによって駆動できている会社は多くありません。
データを集めても、データドリブンでない企業はそれを眺めているだけになっています。さまざまな指標を集計したり、ダッシュボードを作成したりはしますが、それで満足しているのです。データから自分たちの意思決定を改善したり、ユーザを理解したりすることができていないのであれば、それはデータドリブンとは言えないでしょう。
自分たちが重要だと考えている指標が上がったり下がったりしたとき、考え や行動はどのように変わるのでしょうか?この質問はデータドリブンな考え方をするためには非常に重要です。もし答えられないのであれば、データが組織を駆動しているとは言い難いでしょう。データドリブンな企業ではデータが意思決定を改めるのです。
優れた指標によって自分たちの意思決定が駆動されるようにしましょう。良い指標を設定することができれば、組織の意思決定は指標によって改善されるよう突き動かされていきます。では、そのような優れた指標とはどのようなものなのでしょうか?良い指標と悪い指標の違いは?データドリブンな指標の考え方について解説していきます。
行動が変わらないのならば良い指標とはいえない
意思決定に使えるデータドリブンな優れた指標とは、どのようなものなのでしょうか?抽象的にいうならば、値の変化から学ぶことができたり、行動を変えたりすることができる指標です。逆にいえば、指標を設定していてもそこから何も学ぶことができない、行動が変わらないのならば、良い指標とはいえないでしょう。
自分たちが行った施策が良かったのか悪かったのかを知ることができ、次に活かせる指標は、学ぶことができる良い指標だといえるでしょう。たとえばWeb広告を改善しようとするとき、クリック率や課金率などを比べることによって、どのような施策がユーザに対して効果があるのかを学習することができます。このような指標を追いかければ、施策を実験的に行い、改善サイクルを回していくことができます。
どの施策へ投資するのか決めることができる指標も、良い指標でしょう。複数の広告の成果 を比較してどの広告により費用を投じるべきか判断できるなら、それはデータドリブンな意思決定ができる指標です。その指標を使うことで、適切な広告へ予算を効率よく使うことができます。
では、学ぶことができてかつ行動が変わるような指標とは、どのような指標なのでしょうか?それは自分たちの興味があるドメインを定量的に測定でき、さらに施策によって変化する指標です。たとえば、プロダクトマネジメントではただのユーザ登録者数よりもアクティブユーザ率や重要な機能の利用率などユーザのエンゲージメントを示すような指標が好まれますし、Web広告であればインプレッションよりもアカウント作成や課金率が重要になります。
もちろん、優れた指標を見つけることは簡単ではありません。ビジネスや組織の変化に伴って適切な指標も変わっていきます。自分たちのビジネスを助けるような素晴らしい指標は試行錯誤しながら模索することが大切です。
良い指標の具体例を考える
具体的に優れた指標はどのようなものがあるのか考えてみましょう。
たとえば、ライブ配信や動画投稿ができるサービスを通して活動するならば、どんな指標が有効でしょうか。この問題はケースによって様々な考え方がありますが、ここではシンプルに考えてみます。
ライブ配信や動画投稿について多くの人が気にしている数値はなんでしょう?おそらく、ほとんどの人がフォロワー数を話題にするのではないかと思います。人気を知るうえで挙げられることの多い指標です。では、これは配信者や動画投稿者が自分たちの意思決定を改善するにあたって良い指標でしょうか?わたしはあまり良い指標だとは考えません。実際のところ、フォローを解除することはあまり多くないので、フォロワー数は時間経過によって右肩上がりに推移します。このような指標ではユーザが自分のことをどのように思っているのかわかりませんし、自分の配信や動画のどれがよかったのか学ぶことができません。
動画や配信の再生回数はどうでしょうか?これはフォロワー数よりは良いでしょう。コンテンツごとに数値がわかるので、それぞれの良し悪しを振り返ることができます。しかし、再生回数も右肩上がりの指標ですので、エンゲージメントを測ることが簡単ではありません。動画投稿してすぐに1万再生された動画と1年経って1万再生された動画は、同じくらい人気の動画でしょうか?もちろん違いますね。コンテンツが増えれば増えるほど、再生回数は使いにくくなってしまいます。
ライブ配信をするならば、同時接続者数が重要な指標だとわたしは考えます。リアルタイムに配信に参加してくれる人の多くはファンですから、ユーザのエンゲージメントが数値化されているといえるでしょう。配信中も数値が上下するので、細かく自分のアクションに対する考察を得ることができます。
動画投稿なら、投稿してから1日〜1週間程度の短期間における再生回数は示唆に富む指標です。この数値は期間を絞ることで、自分の動画をいつも追いかけてくれているファンのエンゲージメントを数値にできています。ただの再生数というだけでは時間が経つとあまり役に立たなくなりますが、投稿直後の再生回数は今の状態を明確に示してくれる指標です。
このように 、再生回数そのものはあまり良い指標とは言えませんが、期間を絞ることで良い指標となります。他にも、フォロワーも一定期間における増加量に着目すれば学びのある数値です。期間を制限したり数値の変化を見たりすることで、指標として優れたものになるケースもあります。変化を捉えることができるということは優秀な指標の条件といえるでしょう。施策の効果を検証できるようになるからです。
データがイノベーティブなアイディアを生み出すわけではない
ここまでデータドリブンな良い指標について解説してきましたが、データドリブンには限界があるということも同時に理解しておく必要があります。良い施策と悪い施策はデータを使うことで見分けることができますが、データだけでは良い施策そのものを生み出すことはできません。データは細かい改善をすることは得意ですが、データがあるからといって良いアイディアを思いつくわけではないのです。データがあればイノベーティブな発想が生まれてさまざまな問題が解決するだろう、という考えはデータドリブンに対するよくある誤解です。
では、どのようにして良い施策を考えれば良いのでしょうか?それは、データだけではなくビジネスやマーケット、ユーザに対して理解と考察を深めることが重要です。データだけではなく、勘や経験のようなものが必要になります。直感的な発想によって革新的なアイディアが大きな進歩を作り出し、データによって細かい改善を行っていくのです。
データドリブンな企業では数値だけに任せることはしません。数値にできる限界を理解しているからです。数値とい う理性と考察から生まれる直感のバランスが重要です。この2つを上手く組み合わせることでイノベーティブな進化と改善の高速化が可能になり、全体を最適化することができるのです。