薄井研二

薄井研二

(写真:Leon Rafael / shutterstock

データマートで、データの民主化を阻む壁を壊す

データを使って企業の戦略策定のレベルを上げ競争力を高めることは、もはや当たり前のこととなってきました。しかし、多くの企業でデータの活用は中央集権的なアプローチとなっており、データの活用は限定的です。

Updated by Kenji Usui on October, 2, 2023, 5:00 am JST

ほしい情報を生み出すためにどんな加工が必要か。把握するのは熟練の分析者でも時間がかかる

データを利用する際に課題となるのは、それを使う人々のデータに対する理解を深める必要があり、かつその学習コストが高いということです。データを分析するためのSQLやDBなどといった技術的な知識を身につけるだけではでなく、データそのものについてへの理解を深めなければなりません。実は、目の前にあるデータがどこから来ていて、どの程度の信頼性があり、ほしい情報を生み出すためにどんな加工が必要なのか把握することは、熟練の分析者でも時間がかかるものなのです。

前回の記事で述べたように、構成員(社員)にデータを正しく使ってもらうためには、データの品質を高める必要があります。品質を保証できるようにして、誤りや矛盾などの問題がないような正しいデータを作らなければなりません。これはすべての前提として求められることです。

品質の高いデータが揃ったら、次は利用しやすいデータに整えなければなりません。正しいデータがあるだけでは、専門家以外の人が気軽に分析することは難しいでしょう。分析者は必要なデータを抽出・集計するためにどのようにデータを結合し処理していけばよいのかを理解する必要があります。これは分析の目的やビジネス、ドメイン、データベースの特性を踏まえて考えなければならないため非常に複雑な工程です。

ミールキットのようなデータマートを活用する

このような問題への解決策の1つがデータマートを構築することです。データマートはドメインや部門に合わせてカスタマイズされたデータセットです。特定の用途に絞り込んだデータセットを利用することで、幅広い人がデータへアクセスして迅速かつ適切に分析を実行する一助となります。

データマネジメントを料理に例えるなら、品質の高いデータとは質がよく最低限の下処理がされた食材です。魚であれば新鮮で血抜きと内臓がきれいに取り除かれたような状態でしょう。ここから自分たちが食べたい料理を作るには必要な食材を選び、切ったり焼いたりと調理する必要があります。当然、そのためには多様な知識と経験が求められます。

それに対して、データマートはミールキットのようなものです。必要な加工や調理が完了しており、必要に応じてちょっとした一手間でほしい料理を作ることができます。ミールキットはそれ自体を作る手間が必要であり、また他の料理にすることは難しいですが、ほしいものが決まっているなら便利な存在です。

具体的に考えてみましょう。たとえば、マーケティングチームにおけるデータマートの活用を考えてみます。Webマーケティングはデータの活用が最も進んでいる分野の1つといっても過言ではないでしょう。全体の予算やコスト、獲得の進捗、コンバージョンレートなどの指標をユーザーの属性、行動などを紐づいた分析を行ったり、キャンペーンごとに効果を検証したりするような分析が必要となります。そのような数値を分析できるデータマートを準備することで、マーケティングチームは簡単な分析ならば自立して実行することが可能です。

データへの深い知見がなくても、分析ができるように

データマートの一番の利点は、特定のビジネス領域にフォーカスされたデータセットなので現場のメンバーが直面している問題に関連した内容をすぐに特定できることです。課題解決に必要なデータを用意することで分析が簡単になります。たくさんのデータから自分たちに必要なデータを抽出するのではなく、整理された必要なデータを利用することで、どのデータをどのように使えばよいのか明確になります。これによりデータの使い勝手が向上し、迅速に分析を進めることが可能になるのです。

分析が主たる業務でないメンバーがデータを活用できるようにするためには学習コストを下げて簡単に扱えるようにする必要があります。データの扱い方が明確になってわかりやすい、ということは重要です。データマートは事前に処理され品質管理されたデータであるため、どのように分析すればよいのか、どのようなことができないのかが明確になっています。分析に要求されるデータ解釈のスキルが低減されるのです。これによって多くの人がデータを利用しやすくなります。

データマートは深いデータの理解がなくてもデータを分析してビジネスに活かすことができる便利で重要な仕組みです。しかし、当然ですがデータマートを構築し運用するために多くの時間と人が必要になります。言うは易し行うは難し。利便性の高いデータマートを構築することは簡単ではありません。データマートをどのくらい作り込むのか、そのコストと組織への効果を考えながらちょうどよいバランスを模索していく必要があります。