森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

メタバースで無双したければ、遠慮なく理想的な外見のアバターを選ぶべき

仮想世界で自分のアバターを選ぶときですら、どことなく遠慮しながら自分のキャラクターを選んではいないでしょうか。しかし、人の行動が実は見た目によって大きく左右されているとしたら……? 外見を好きに選べる世界では、あなたが中身も含めて理想的なキャラクターそのものになることは難しくないのかもしれません。

Updated by Yuko Morimoto on August, 22, 2023, 5:00 am JST

背の高い人が堂々としている理由を調べる

背の高い人は堂々としているなぁと思ったことはありませんか? 私はあります。女性としては背の高い方(167cm)なのですが、たまに自分より背の高い女性と出会うと「うわ、堂々としている」と思い、圧迫感を覚えて気持ちがしゅんと小さくなってしまいます。もしかすると、ふだん私を相手にしゅんとしている人もたくさんいるのかもしれません。

さて、背が高い人は堂々としているとしましょう。それなら、「背が高い『から』堂々とした行動をとるのだ」と結論づけても良いでしょうか?

答えはNOです。

たとえば、年収が高い人ほど血圧が高いことが知られていますが、この関係の理由はなんだと思いますか? 年収の高い人は豪華な食事をとるので血圧が高いのでしょうか。いつも大変な仕事をしていて血圧が高くなっている人ほど年収が上がるのでしょうか。実はそのいずれも間違いで、年収と血圧の関係の背景には、「年齢」という要因が隠れているのです。年齢が高い方が年収が高く、同時に、年齢が高いほど血圧が高いわけですね。謎解きされてみると、なぁんだと拍子抜けされたのではないでしょうか。

年収と血圧の関係と同様に、背が高い人が堂々としているとしても、背の高さという要因が直接その人のふるまいに影響しているかどうかはわかりません。なにか他の要因が影響して、無関係なところに関係があるように見えているのかもしれません。そういう影響を排除して、本当の本当に背の高さと堂々としたふるまいとに関係があるかを調べるには、いったいどうすればいいでしょうか。

もし、それぞれの人の背の高さを変えることができたとしたら、背の高い場合に人はどうふるまい、背の低い場合にはどうふるまうかを比較することができます。では早速、身長を180cmにされたときと150cmにされたときで、行動がどう変わるか比較して、身長の効果を調べましょう! 素晴らしい実験プランです。ただし、人間の背の高さを変化させるのは通常不可能だという点を除けば。

ところが、これを可能にする技術があります。VR、つまりヴァーチャルリアリティを使って、その人の使うアバターの背を高く、あるいは低くしてやれば、背が高いときに人がどうふるまい、背が低いときにはどうふるまうかを調べることができますよね。肉体による影響を、非肉体環境で調べる。私なんかはこういうところに大変なワクワクを感じるのですが、ともあれ、実際にこれを調べた研究を見てみましょう。

背が高くなると強気になり、外見がよくなると他人に近づく

スタンフォード大学のイー氏らは、背の高いアバターと背の低いアバターを使い、自分の背が高い(あるいは低い)と感じさせられたときのふるまいを調べました※1。まず、参加者と実験協力者に、ヴァーチャルリアリティの世界に入ってもらいます。このとき、参加者は実験協力者のアバターより10cm高くて相手を見下ろすような視線になるアバターか、実験協力者のアバタより10cm低くて相手を見上げるような視線になるアバターか、そのいずれかを使いました。なお、参加者には相手の実験協力者は自分と同じように集められたただの参加者だと信じさせています。

その状態で、参加者と実験協力者には100ドル(約1万4千円)が渡されます。第1試行では、参加者はこの金額を実験協力者(=他の参加者)との間で自由に分けていいと言われます。全額自分のものにしてもいいし、全額相手にあげてもいい。ただし、相手がその分配額を聞いて、NOと言ったら二人ともなにももらえません。さああなたならどうしますか? 

背の高い人ほど多くを自分に分配したのでしょうか? 実は、第1試行では、背の高さは分配額に影響していませんでした。背の高い条件では平均54%を、背の低い条件では平均55%を自分に多く分けていて、差はなかったのです。

第2試行、今度は実験協力者が100ドルを分ける番です。ここで実験協力者は50%ずつ分けることを選びました。そして第3試行、再び参加者が100ドルを分ける順がやってきます。背の高さの影響が出たのはこのときでした。背の高いアバターを使った参加者は平均61%を自分に、背の低いアバターを使った参加者は平均52%を自分に多く分配したのです。背の高い参加者が、ちょっと強気に出てきたのがわかります。

そして最終試行、実験協力者が75ドルを自分に、25ドルを参加者に分けるという宣言をしました。背の低いアバターを使った参加者の72%がこれを受け入れたのに対し、背の高いアバターを使った参加者で受け入れたのは38%だけで、残りは分配を拒否していました。なんと、使用しているアバターの背が高いというだけで、相手の不公平な扱いに反発するようになったというのです。

イー氏らは、他にも、アバターの外見的魅力度を変化させて、他人との距離の詰め方に違いがあるかを調べています。外見のよいアバターを使った参加者は、外見のよくないアバターを使った参加者に比べて、ヴァーチャルリアリティ空間の中で実験協力者の近くまで歩み寄り、自分について多くのことを話していました。外見がよくなると、他人との距離を詰めることが容易になるようです。イー氏らは、アバターによってふるまいが変わる現象を、ギリシャの神様にちなんでプロテウス効果と呼んでいます。

引き締まっているからアクティブにふるまう、悪役っぽいから悪いことをする

プロテウス効果は実際のパフォーマンスにも影響を与えるようです。パリ大学のギーガン氏らは、発明家アバターを着用した参加者は、普通のアバターを着用した参加者よりも、クリエイティブなアイデアをスムーズにたくさん思いつくことを示しています※2。外見をそれっぽくするだけで思いつくアイデアがクリエイティブになるなんてびっくりですよね。

また、運動に前向きになれるかどうかにもアバタが影響します。肥満児の運動促進としてエクササイズゲーム(Wii Sports)を使った研究では、通常体型のアバターを使った肥満児は、肥満体型のアバターを使った肥満児よりも、運動全体に前向きで、やる気があり、ゲームに対するモチベーションが高く、ゲーム内での成績もよかったという結果が報告されています※3。同様に、大人でも肥満アバターを使うよりも通常体型アバターを使う方が身体活動量が増える※4,5というのですから面白いですよね。現実世界に当てはめると、運動するから痩せるという関係だけではなく、痩せているから運動量が多いという関係もあるのかもしれません。

最後に、悪役っぽい外見が行動に与える影響を調べた研究をご紹介して終わりにしましょう。イリノイ大学のユン氏ら※6は、参加者に5分間ゲームをプレイしてもらいました。ゲームの中で、参加者は、スーパーマンのアバターか、ヴォルデモート卿(ハリーポッターの悪役)のアバターのいずれかを着用しました。ゲームが終わったら、「次の参加者」が味見をする飲み物にチリソースを好きなだけ入れるように言われます。ご想像の通り、ヴォルデモート卿のアバタを使ったあとの参加者は、スーパーマンのアバターを使った後の参加者に比べて、チリソースをたくさん「次の参加者」が味見をする飲み物に入れていました。悪役アバターを使うと、悪いことをしたくなるのでしょうか。

私たちは、気づかないうちに、自分の身長や体重、見た目のよさや悪役っぽさからいろいろな影響を受けているようです。また、アバターをどんな見た目にするかによって、オンラインライフ、そして現実世界においても、大きな影響を受けてしまう可能性があるかもしれません。ちなみに私がよく使っているアイコンはネコなのですが、どんな影響を受けているのでしょうか。きっと仕事中に寝そべってゴロゴロしたくなるのは、このアイコンのせいなのでしょう。

参考文献
※1. Yee, N. & Bailenson, J. The Proteus Effect: The Effect of Transformed Self-Representation on Behavior. Hum. Commun. Res. 33, 271–290 (2007).
※2. Guegan, J. , Buisine、 S. , Mantelet, F. ,Maranzana, N. & Segonds, F. Avatar-mediated creativity: When embodying inventors makes engineers more creative. Comput. Human Behav. 61, 165–175 (2016).
※3. Li, B. J. , Lwin, M. O. & Jung, Y. Wii, Myself, and Size: The Influence of Proteus Effect and Stereotype Threat on Overweight Children’s Exercise Motivation and Behavior in Exergames. Games Health J 3,40–48 (2014).
※4. Peña, J. & Kim, E. Increasing exergame physical activity through self and opponent avatar appearance. Comput. Human Behav. 41, 262–267 (2014).
※5. Peña, J. , Khan, S. & Alexopoulos, C. I Am What I See: How Avatar and Opponent Agent Body Size Affects Physical Activity Among Men Playing Exergames. J. Comput. Mediat. Commun. 21, 195–209 (2016).
※6. Yoon, G. & Vargas, P. T. Know thy avatar: the unintended effect of virtual-self representation on behavior. Psychol. Sci. 25, 1043–1045 (2014).