外国政府にも「安心できる人物」であることを保証する
2024年には、セキュリティクリアランスを拡充する内容の立法がなされるという※2。
クリアランス制度は、欧米諸国や韓国などで導入されている。日本でもクリアランスに相当するものとして、特定秘密保護法上の適性評価(後述)がある。しかし特定秘密・適性評価の運用は極めて限定的であり、日本にはクリアランスを有する民間人は少ない(2022年で 保有者は132,567人(そのうち民間は3,828人))。
他方、国際ビジネス・研究の分野では「機微な情報の共有が必要とされる諸外国との共同研究、諸外国政府からの受注にあたっては、いわゆるセキュリティ・クリアランスと呼ばれる適性評価を受けていることが求められることがある」という※3。そうした背景を前提に、民間人にもクリアランス制度を拡充すべきであるとの声が経済界等から上がり、経済安全保障法制の一環として同制度の拡充を内容とする立法が目指されている。
日本が参考にしている米国のクリアランス制度
日本の立法の際に参考とされているのが米国の制度である。そこで、まずは、米国におけるクリアランス制度の概要を紹介しよう。米国において、クリアランス保有者は約400万人、そのうち実際に機密情報にアクセスしている者は約300万人とされる(2019年)。
科学的・技術的・経済的事項も機密情報の対象に
クリアランスは情報の機密指定を前提とする制度であるが、米国では軍事計画や兵器情報だけでなく、国家安全保障に関連する暗号その他の科学的・技術的・経済的事項も機密情報の対象となる。この機密情報は、原則として、機密度の高い順に、「機密」、「極秘」、「秘」という3つに区分される(表1参照)※4。クリアランスも同様に3つに区分され、付与されると同等以下の区分の機密情報にアクセスできる、という枠組みである。
個人が勝手に申請できるものではない
クリアランスの取得申請は、付与対象である個人(以下「対象者」)ではなく、クリアランスを付与しようとする行政機関(スポンサー機関)が行う。すなわち、クリアランスを希望するからといって個人が勝手に申請できるものではない。あくまでも、クリアランスを付与する必要があるかは行政機関側が判断する。そして機密情報へのアクセスを要する地位を離れるときは、原則としてクリアランスは取り消される。
申請にあたり、対象者は所定の質問票※5 に回答し、各種証明書などの裏付資料とともに提出する。対象者は同質問票において、国家安全保障裁定ガイドライン(後述)に列挙された13の検討項目(表2参照)について、過去7年間(場合によっては過去の全期間)における自己の該当情報の開示が求められる。また経済信用情報、医療情報等について関係機関に照会することに関する同意書への署名も求められる。
身上調査は書類審査の他、ポリグラフ検査が行われることも
身上調査も行われる※6。方法は、公的データの照会、書類審査の他、クリアランスの区分や職種によっては、本人や関係者への面談やポリグラフ検査が実施される。
身上調査に要する費用は、対象者が政府職員か民間の従業員かを問わず、ほぼすべて行政機関が負担し、その総額は15億ドル超とされる(2021年)。