毎日4〜8mのタンクに登って飼料の残量をチェック。高齢化が進む畜産農家が直面しているリスク
鶏や豚、牛などの家畜を肥育する畜産農家は一日たりとも世話を怠ることができないことから、農業の中でも特に労働環境が厳しく、後継者不足による高齢化が深刻です。農家は毎日の餌やりのためタンクで保管している飼料を切らさないよう残量を把握する必要があり、毎日タンクを巡回しては一基ずつはしごで上り目視でタンク内を確認したり、竹の棒でタンクを叩いたりして確認をしています。
タンクは通常4~6m、大きなものではおよそ8mの高さがあります。大規模な農場には50基を超えるタンクがありますから、雨の日も雪の日もタンクに上る作業は農家にとって大きな負担であるうえ、高所での作業は危険が伴います。
加えて現在はウクライナ情勢に伴う穀物価格の上昇等に伴い配合飼料価格が上昇しており、経営的にも厳しい状況が続いています。畜産経営にかかる費用の6割弱が飼料代といわれていますので、輸入飼料に頼る日本においてこの飼料高騰は大打撃です。後継者不足問題と重なり、廃業する農家も後を絶たない状況です。
また営農を続ける農家も物価の低い現在の日本では飼料の上昇分を販売価格に転嫁できず、とても苦しい経営状況が続いています。そのため経費を無駄にしないよう、飼料管理の重要性が増してきているのです。
目前に迫る物流業界の「2024年問題」
畜産特有の事情から、負担を余儀なくされている状況もあります。メーカーから畜産農家などに飼料を輸送する運転手は、一般的な運送業務のほかに飼料輸送に付随するさまざまな特殊作業を行うことになります。
農場に入る際は、家畜の健康を守るために車両の消毒、作業服や靴の着替えが必要です。また飼料タンクの残量確認を農家に代わってすることもしばしば。飼料輸送の前に飼料残量を確認しなければならず、運転手は遠距離を複数回確認しに行くことも少なくありません。飼料はバルク車など特殊な大型車両で運び、高いタンクに登って補充を行います。
飼料不足に気がつくのが遅れた場合、飼料メーカーは農家からの突然の注文にも対応し、その農家専用の飼料を製造・輸送しなければならず、大変な手間が発生します。 また農家からの注文は未だ電話かFAXが多いことから、聞き間違えなど人的ミスが発生することもあり、そのムダも問題となっていました。
さらに現在は、物流業界をゆるがす「2024年問題」にも対峙しなくてはなりません。2019年の「働き方改革関連法」施行以降、さまざまなセクターで長時間労働や非正規労働者の待遇格差の是正が進んでいます。
これまで適用が猶予されてきた物流業界も、2024年4月から時間外労働が上限年960時間に規制されます。また、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金も引上げられるのです。
運転手の労働時間が短くなることで実質的に人手不足が加速する上、割増賃金の導入で輸送コストの高騰が懸念されるため、物流業界の「2024年問題」と呼ばれています。この法適用を前に、畜産業は大きな曲がり角に直面しています。
飼料の生産拠点は太平洋側の一部に集中しているため輸送は長距離に及びます。また、前述のとおり飼料メーカーは農家から急な注文があるたびにトラックの再手配や製造計画の見直しをするため、集荷場や卸売市場でのトラック運転手を待たせる時間が生じています。あるデータでは農産品について輸送能力が3割不足するという予測がされており(「第3回 持続可能な物流の実現に向けた検討会」 資料1 (経済産業省 ・ 国土交通省 ・ 農林水産省))、畜産農家にとっては毎日必要な飼料の輸送体制を維持できなくなる恐れがあるのです。
現実的な問題解決方法としてのスマート農業
スマート農業という言葉が聞こえ始めておよそ5年以上経過し、搾乳現場や鶏卵工場ではデジタルを活用した多くの取り組みが進められています。一方で家畜を肥育する畜産現場はデジタルに対してまだあまり馴染みがありません。だからこそ畜産業界のさまざまな課題に対し、デジタルで何ができるのかを伝えていくことが大切です。デジタル技術の活用によって、働き方改革・生産性向上により畜産業界の環境負荷を低減し、サステナビリティ向上にも寄与できる。そうした未来を描きつつ取り組む必要があるのです。
畜産業界をめぐる状況は厳しさを増していますが、飼料の残量を確認するための新しいソリューションも誕生しています。YEデジタルでは、飼料残量の可視化に特化した製品「Milfee」を開発。高精度な計測でタンクサイズや飼料形状を問わず残量の可視化しました。外出先から携帯電話などを使って、離れた場所からも飼料の残量が確認できるというものです。
このデータを飼料販売メーカー、飼料配送業者も共有することで農家だけではなく、畜産業界の業務効率化につながります。
農家では、毎日飼料残量を確認するための危険作業がなくなり、さらに餌切れを起こす心配が無用に。飼料メーカーでは、農家からの急な注文がなくなるため、計画的な飼料製造が可能となります。
飼料輸送業者においては、飼料輸送の前に飼料残量を確認するための複数回に及ぶ遠距離走行がなくなります。
また、「Milfee」導入によって飼料輸送車の走行距離を減らすことができた事例もあります。北海道の事例では、飼料の残量確認・補充にかかる走行距離は、車両1台あたり6,000km/月だったものが、4,000km/月に削減でき、CO2の排出量削減にもつながりました。
環境問題への取り組みは、いま世界各国でおこなわれ、特に地球温暖化の原因と言われている「CO2排出量の削減」に向けた動きが注目されている中、効率のよい輸送を促進することが重要です。