自社ビルを作ると業績が伸びる?
DX推進のためのシステムのポイントについて教科書的な話をしましたが「そうは言っても、なかなかうまくいかないんだよ」というのが現実だと思います。
業界内でよく聞く笑い話に、データアナリストが成長する企業の特徴を出そうとデータの分析をしたところ、自社ビルを持っている会社は業績が伸びているという関連性を発見し「自社ビルを作ると業績が伸びる」というレポートを作ったというものがあります。そこまで極端な「結果」を出してくる人はなかなかいないですが、実はこのエピソードを笑えないような、因果関係の逆転した結果が出てくることはよくあります。
ベンダーロックインとPoC疲れ
そもそも、データ分析の前にデータの収集に時間がかかっているという問題もあります。この要因としてよく聞くのは、データのソースがサイロ化し、分散しているということです。企業の情報システムは、長い時間をかけて建て増しで作られてきたケースが多いので、そもそもシステム自体がサイロ化していて、データが一つに集まっていない。そ の状況で、必要なデータを取得しようと思った場合、まずどこのシステムにこのデータがあるのかを確認して探し、そこにアクセスして持ってくる必要があります。さらにはシステムが厳重なセキュリティで守られているため、アクセスの許可を取るのに1週間かかるなんていうことも。つまり分析に必要なデータを特定して集めてくるということ自体が、非常に手間がかかる作業になっているのです。
またそういった状況では、ベンダーロックインや担当ロックインが発生しやすくなります。 IT部門で業務が属人化していたり、外部ベンダーに業務を委託していたりすると、ちょっとしたデータを取得するのに「2週間ください」だとか「200万かかります」という答えが返ってくる。自分たちのデータにもかかわらず、IT担当者やベンダーの都合に左右されるということですね。
そのような経過を経てようやく集まったデータの分析をしてみようとするわけですが、そのデータを分析する人は外部のデータサイエンティストやデータアナリストだったりします。彼らに「データ分析のPoCをやってみましょう」と言われてやってみる。しかしながらそういったデータの専門家が事業ドメインの専門家であるケースはかなり少ないです。結果として、現場の人から見ると当たり前のことを、さも珍しいことを発見したかのようなPoCとして提出したり、因果関係が逆転した結果を出してしまったりするわけです。
そういったPoCを100回、200回とやっても、事業変革に繋がるインサイトは出てきません。そうしてPoCにばかり現場が付き合わされて疲弊してしまうというようなケースも、現実には起こってい るのではないかと思います。