森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

ワクチンは誰に効いたのか?

DX社会できっと役立つ、とっておきの心理学を紹介。今回は、ワクチンの「効き」について考察します。

Updated by Yuko Morimoto on April, 5, 2023, 5:00 am JST

ワクチンの効き方には個人差がある

どんなに優れたワクチンでも、100%効くわけではありません。ついファイザーかモデルナか、というような比較をしがちですが、実は、ワクチンの効き方はワクチンを受ける方、つまり個人の状態によっても変わるということが知られています。

たしかに体質によって効きは違いそうだな、と思われましたか? 体質以外にも、喫煙者かどうかや、普段のアルコール量、ワクチン接種前後の睡眠の状態など、つまり身体の状態もワクチンの効きに影響します。さらには、ワクチン接種前後のストレスの量や、元々ポジティブな人かどうかなどの心の状態も、ワクチンの効果に影響するらしいことがわかっています。この記事では、主にこの心の状態の影響についてご紹介していきたいと思います。

2021年、オハイオ州立大学のマディソン氏とその共同研究者たちは、多くの文献を検証し、さまざまなワクチンの効果に心理的要因が影響することを報告しています※1。マディソン氏らは、こうした要因が、新種のワクチンである新型コロナワクチンの効果にも影響するかは未知数であるとはしつつも、十分に考慮する必要があるだろうと指摘しています。

ストレスを強く受けている人ほどワクチンの効果が弱い

今から20年ほど前の2000年頃には、すでに心理的なストレスがワクチンの効きに影響することが知られていました※2。心理的ストレスの高い人ほど、インフルエンザ、B型肝炎、肺炎などの予防接種の効果が弱かったり、効果が長く維持されなかったりしたのです。ただし、こうした研究の多くは認知症の家族を介護している人など、重度のストレスのかかった人や主に高齢者を対象としていたため、もっと軽いストレスの場合や若者でも同様の効果が見られるのかはわかっていませんでした。

そこで2004年、ブリティシュコロンビア大学のミラー氏らは、若者にインフルエンザワクチンを接種し、ワクチンの効果とストレスとの関係を調べました※3。その結果、一部のワクチン株では、ストレスが中程度よりも大きい場合にワクチンの効果が弱く、またやや維持されにくいことがわかりました。

さて、ミラー氏らの関心は、ワクチンを打つ前、打った直後、打ってしばらく、どの段階のストレスが、ワクチンの効果を弱めるのかにもありました。ミラー氏らが、ワクチン接種前の3日間と、接種後の10日間、参加者のストレスをモニターした結果、ワクチンを接種した後10日間のストレスが高いほど、睡眠の質が悪化しており、睡眠の質が悪いほど再びストレスが高まり、そしてそのサイクルの中でワクチンの効果が弱くなってしまう、ということを発見しました。ワクチンを打った後に、ストレスの少ない日を過ごし、よく眠ることが大事、というわけです。接種日や接種前ではなく、接種後のストレスが影響するというのは、やや意外だったのではないでしょうか。

とはいえ、介護などの大変な状況ではなかなか理想通りにはいきません。アルツハイマーの家族がいる場合や、発達障害を持つ子どもがいる場合には、ワクチンの効果が弱くなることが、さまざまな研究で報告されています。だからこそ、それ以外の人が積極的にワクチンを接種し、集団で防御していくことが必要になるのだろうと思います。 

ポジティブな人ほどワクチンが効く

ストレスがかかっている状態かどうかは、変えようと思えば変えられる可能性のある要因です。一方、性格的にポジティブな人かどうか、という、性格の個人差に関する要因も、ワクチンの効きに影響することが知られています。

ピッツバーグ大学のマースランド氏は、2006年、ポジティブな感情を感じやすい人の方が、B型肝炎ウィルスの効果が大きいことを発見しました※4。また、ストレスが大きいほどワクチンの効きが悪いという研究を紹介しましたが、客観的なストレス量そのものではなく、本人が「感じている」ストレス量がワクチンの効きに影響することを示した研究もあります※5。さらには、ワクチン接種についてポジティブに思っている人ほど予防接種の効果が大きいそうです※6。まさに、信じるものは救われる、ということでしょうか。

ここまで紹介してきたのは、どれも新型コロナ以外のワクチンの効果についての研究です。ですから、新型コロナワクチンの効果が人によってどのように異なるのかは、まだこれからデータが集められる段階です。ひとまず他のワクチンの研究でわかっていることをまとめると、「心理的にポジティブで前向きな状態だとワクチンがよく効く」と言えるのではないかと思います。こうしたデータを元に、※1でご紹介したマディソン氏らは、新型コロナの影響下で、ストレスや孤独感などのネガティブな状態の人が増えていることを踏まえ、実は誰も気づかないうちにワクチンの効果が弱まっているのでは……と、懸念を表明しています。

次回のワクチンはなるべく楽しい気持ちで受けたいなとは思いつつ、そうは言っても10日間もストレスなしでぐっすり眠れる時期なんて、なかなか人生にはないのですよねぇ。

参考文献
1. Madison, A. A. , Shrout, M. R. , Renna, M. E. & Kiecolt-Glaser, J. K. Psychological and Behavioral Predictors of Vaccine Efficacy: Considerations for COVID-19. Perspect. Psychol. Sci. 16, 191–203 (2021).
2. Cohen, S. , Miller, G. E. & Rabin, B. S. Psychological stress and antibody response to immunization: a critical review of the human literature. Psychosom. Med. 63, 7–18 (2001).
3. Miller, G. E. et al. Psychological stress and antibody response to influenza vaccination: when is the critical period for stress, and how does it get inside the body? Psychosom. Med. 66, 215–223 (2004).
4. Marsland, A. L. , Cohen, S. , Rabin, B. S. & Manuck, S. B. Trait positive affect and antibody response to hepatitis B vaccination. Brain Behav. Immun. 20, 261–269 (2006).
5. Burns, V. E. , Drayson, M. , Ring, C. & Carroll, D. Perceived stress and psychological well-being are associated with antibody status after meningitis C conjugate vaccination. Psychosom. Med. 64, 963–970 (2002).
6. Pranggono, E. H. et al. Medical students’ positive perception towards vaccination is strongly correlated to protective diphtheria antibody after Td vaccination. Brain Behav Immun Health 18, 100362 (2021).