饗庭伸

饗庭伸

現地においてQRコードを読み取ってCGを視聴している様子。(写真:饗庭伸)

ピカピカの建築物をつくらなくても、データでまちに生まれる「よい計画」

前回、饗庭伸氏は郊外の土地を生かすために大量のデータを基にしたPLATEAUを用いて市民とともにワークショップを進めてきたことを紹介した。このことから明らかになったのは、DXはまちづくりにおいてプロセスは変えねど、その質に影響していくということである。

Updated by Shin Aiba on April, 12, 2023, 5:00 am JST

「PLATEAUやMR技術」に興味を持つ人たちが集ったことで、まちづくりの参加者に変化

では「よい人のつながり」はどうであろうか。ワークショップの参加者は「まちづくり」か「PLATEAUやMR技術」に興味を持つ人たちであったが、後者はこれまでのまちづくりには登場しなかった人たちである。相対的に若く、学生の参加者も多くいたが、IT革命が起きたのはもはや30年前のことではあるので、IT企業の経営者や熟練したIT技術者も参加しており、若者だらけになる、ということではない。ワークショップでつながりが作り出されたばかりの状況ではあるが、まちづくりにDXを持ち込むことによって、これまで参加しなかった新たな市民層とのつなぎなおしができるということではないだろうか。

データが導くよりよい意思決定のプロセス

最後に「よいプロセス」を考えてみよう。まちづくりのDXを進める時には、既存の意思決定の仕組みとの関係を慎重にデザインしなければならない。デジタルを使った意思決定は「速さ」を指向するが、既存の意思決定は遅い仕組みであることが多く、その速さのズレから関係をうまくつくれないことがあるからだ。理想の未来は、議会がメタバースで開催され、議員が膨大な量の情報を処理しながら、てきぱきと意思決定をしていく……というものかもしれないが、それが簡単ではないことも明らかである。既存の仕組みを急激に変えることなく、どうDXを進めていけばよいのか。

ワークショップでとった方法は、速さが異なる二つの仕組みを無理に混ぜず、既存の行政や議会の仕組みと並行する、まちづくりを検討する場としてワークショップを立ち上げるということであった。ワークショップは、有志が集まりアイデアを出す場、基本方針等を決定する場ではなく、そこによい影響を与える場として定義された。大袈裟に言えば、メタバースを立ち上げたようなものであるが、例えばSNSでつくられた仮想的な人のつながりが現実の人のつながりに影響を与えることは多くあることなので、それほど新しいことではない。なお、この「よい影響」を担保するには、既存の仕組みとワークショップの間をつなぐ役割が必要であるが、市の担当職員が全てのワークショップに参加し、時にフラットな立場で参加者とも意見を交換したことは付け加えておきたい。

DXは急激に進む場合と、ゆっくりとしか進まない場合がある。まちづくりの場合、最終的には人々のアナログな納得を作り出していかなければならないので、急ぎ過ぎず、時に後戻りしつつ、確実にゆっくりと進めていくこととなる。そしてその「アナログな納得」の根拠となるのは、人々が顔を合わせ、手を動かして一緒にものごとを考えた、という経験なのではないだろうか。筆者の研究室では、かつてSecond LifeMinecraftを使った、VR空間でのまちづくりワークショップに取り組んだことがある。アバターを介しての議論も楽しいものであったが、MR技術を使ってHMDとiPadを介して顔を突き合わせて行うワークショップに参加している人たちは、それはとても楽しそうであり、そこに大きな可能性を感じているところである。


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