森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

読んでいない記事についてすら「知っている」つもりになってしまう人々

デジタル社会できっと役立つ、とっておきの心理学を紹介。今回は「知ったつもりになってしまう」という情報化社会の罠について紹介します。

Updated by Yuko Morimoto on April, 19, 2023, 5:00 am JST

対面で誰かに話をするとき、読んでいない記事の内容を共有するか?

情報化社会という言葉が使われ出してから随分経ちました。今では、インターネットで情報を検索したり、その情報を他人とSNSを通じて共有したりすることが普通になりましたね。

さて、あなたのその「情報」、本当にあなたは「知って」いますか?

なにを言っているんだと思われたかもしれません。しかし考えてみてください。あなたは、タイトルだけ読んだオンライン記事を他人に共有したことはないでしょうか? そのとき、あなたはそのオンライン記事の内容をきちんと「知って」いたと言えるでしょうか。 実は、とある研究によると、Twitter上で共有された記事リンクのうち、なんと半分以上が一度もクリックされておらず、当然読まれてもいないというのです※1。

これはある意味ではDX化による罠とも言えます。もし、対面で誰かに記事を共有するとしたら、タイトルだけ読んだ状態で共有しようと思うでしょうか? 一応、記事をざっと読んで……ふむふむなるほどこういうことが書いてあるのか……他人に話せるくらいには内容を確認して、それからようやく、誰かに共有しようと考えるのではないでしょうか。ところが、SNSでは、その共有ボタンを押せばほらすぐに、内容を正確には「知ら」なくても、気軽に情報を共有できてしまうというわけです。

共有しただけで「知っている」

ところが、私たちは、知らないはずのその記事の内容を、自分が他人に共有したというだけで、なぜか中身まで知っているつもりになってしまうようだ、というびっくりするような結果を、テキサス大学のウォード氏とその共同研究者らが示しています※2。

まず、ウォード氏は大学生参加者にSNS上で記事を読んだり共有したりする機会を与えました。参加者によって共有された記事のうち4割は最後まで読んだ上で共有されていましたが、2割は途中まで読んだ状態で、残りの4割は全く読まずに共有されていました。先ほどご紹介した研究と似たような結果です。

その後、自分はどのくらいそのトピックについて知っていると思うかを主観的に回答してもらいます。同時に、トピックに関する客観的な知識もテストしました。その結果、参加者らは、共有した記事のトピックについての客観的知識は決して多くはなかったにもかかわらず、主観的にはよく知っているつもりになってしまっていたというのです。

面白いことに、他人のアカウントで共有した場合には、この効果は生じなかったそうなのですね。自分のアカウントで共有した情報だけ、自分が「知って」いるように感じてしまうのです。また、親しい友達に共有した場合の方が、知らない他人に共有した場合よりも、その記事の内容を「知って」いると感じる程度が高くなっていたそうです。つまり、より対面に近い状況の方が、「共有しただけで知っていると感じる」効果が強くなるというふうにまとめられるかもしれません。

Googleの手柄を、自分の知識だと思い込んでしまう

さて、この効果を見つけたウォード氏は、人が「Googleで検索したこと」と「自分の頭の中にある知識」もうまく区別できないのではないか、と考えました※3。ウォード氏は、参加者を、普通に知識テストを受けてもらう条件と、Googleを使って知識テストを受けてもらう条件に、ランダムに振り分けます。知識テストの成績は、当然Googleを使った人たちの方が高くなっていました。

でも、それはGoogleを使ったからに過ぎません。実際、あとでインターネットなしで知識テストを受けてもらうと、その成績は、普通に知識テストを受けた人たちと変わらない点数にまで落ちていました。

ところが、Googleを使って検索しいい点数をとった人たちに、「これからインターネットなしで知識テストを受けてもらいますが、どのくらいの点数が取れると思いますか?」 と尋ねると、「自分はインターネットなんかなくても良い成績をおさめるだろう」と誤って予測してしまうことがわかりました。Googleの手柄を、自分の知識だと思い込んでしまうのです。

実際、Googleを使って知識テストを受けた後、参加者は、情報を記憶する能力や、思考力について自信を持つようになっていました。「私は頭がいい」とか、「私は普通の人よりも記憶力がいい」という回答が多くなっていたのです。一方で、Googleとは無関係な能力、たとえば、社会的なスキルや数学の問題を解く能力については特に自信を持つようにはなっていませんでした。

さて、この困った「Google効果」ですが、ウォード氏によると2つの解決策があるようです。1つ目は、Google検索する前に、自分の答えを書いておくこと。これによって、自分の手柄とGoogleの手柄がはっきり区別されるようになるためです。2つ目は、インターネットの速度を下げること、です。むむむ、どういうこと? と思われたでしょうか。理屈は1つ目の解決策と同じです。Google検索の結果が出てくるのが遅ければ、それまでに自分の答えをまとめる時間ができます。そうすると、Googleが正解を出してくれたときに、「自分の答えが間違っていた」とか、「自分には知識が思いつかなかった」ことが、よりはっきりするというわけです。

情報をインターネットから得ている人ほど金融リスクをとる

さて、ウォード氏は、さらに研究を進めます。なんと、金融に関する知識をGoogleで検索すると、金融知識への自信が増え、よりリスキーな投資をするようになってしまうというのです※4。実際、金融に関する知識をGoogleで検索した参加者は、まったく同じ情報をそのまま渡された人に比べ、その後に行った投資ゲームで、自分のパフォーマンスに自信を持ち、よりリスキーな選択をするようになってしまいました。しかし、実際には、投資から得たリターン額は、単に知識を得た人たちより高くはありませんでした。ここでも再び、Google効果が見られたわけです。

問題は、これが現実の投資行動にもつながっているのか、ということです。ウォード氏は、米国の全国代表消費者を対象とした2016年消費者金融調査(SCF)のデータを使って、現実世界でもこうした関係が見られるのかを調べました。その結果、やはり、客観的な金融リテラシーや教育などの影響を考慮しても、金融情報をインターネットから得ている人ほど金融リスクをとることに前向きであることがわかりました。また、この効果は、インターネット以外の様々な情報源から情報を得ている人よりも、インターネットへの情報依存が大きい人ほど、大きかったのです。いま、投資を行なっていて、金融知識を主にGoogleを使って得ている人は、少しだけ慎重になったほうがいいかもしれませんね。

さて、最後までこの記事を読んでくださったそこのあなた、あなたは堂々と「記事を共有する」資格があります。共有したから知識が得られた気になっているわけではなく、実際に記事を全部読んで、知識を得たわけですからね。共有の際には、ぜひ、「知識を得たければ、最後まで読むように」とお伝えください。

参考文献
1. Gabielkov, M., Ramachandran, A., Chaintreau, A. & Legout, A. Social Clicks: What and Who Gets Read on Twitter? in Proceedings of the 2016 ACM SIGMETRICS International Conference on Measurement and Modeling of Computer Science 179–192 (Association for Computing Machinery, 2016).
2. Ward, A. F. , Zheng、 J. (frank) & Broniarczyk, S. M. I share、 therefore I know? Sharing online content ‐ even without reading it ‐ inflates subjective knowledge. J. Consum. Psychol. (2022) doi:10.1002/jcpy.1321.
3. Ward, A. F. People mistake the internet’s knowledge for their own. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 118, (2021).
4. Ward, A. F.、 Grillo、 T. & Fernbach, P. Confidence Without Competence: Online Financial Search and Consumer Financial Decision-Making. Available at SSRN 4131784 (2022) doi:10.2139/ssrn.4131784.