「ハイパースケーラー(Hyper Scaler)」とは、100万台以上の巨大規模なサーバーリソースを保有する企業を呼ぶ言葉です。一般に数千台規模のサーバーまで拡張可能なハイパースケールデータセンターを運営するクラウド企業を指します。例えば、米Amazon Web Services(AWS)、米Microsoft、米Google、米IBM、米Oracle、中国Alibabaなどの企業が該当します。
数千台規模までシームレスに拡張可できるデータセンターを提供
企業のITシステムはオンプレミス、パブリッククラウド、それらを組み合わせたハイブリッドクラウドといったプラットフォームを利用しています。コロナ禍で、多くの企業がパブリッククラウドのサービスを積極的に導入するようになりました。データやアプリケーションが増え続ける中で、各企業はストレージ、コンピューティング、バックアップ、ホスティングなどのサービスをクラウドベースのプラットフォームに移行し、そこで提供されるスケールとコンピューティング能力を活用しようとしています。
こうしたニーズに応える存在として存在感を増しているのが、ハイパースケールデータセンターです。世界のクラウドを支える主力となっているのは、従来型のデータセンターではなく、既にハイパースケールデータセンターになりつつあり、ハイパースケールシフトと呼べる状況が起こっています。
ハイパースケールデータセンターでは、ハードウェアや各種のファシリティを組み合わせて、ビッグデータあるいはクラウドコンピューティングのための分散コンピューティング環境を提供します。サービス規模の拡張に合わせてIT機器の台数を増やし、処理能力を上げるスケールアウトが可能です。ユーザーの需要に応じて特定のノードやノードセットに対して、CPU、メモリー、ネットワーク、ストレージといった各リソースをシームレスにプロビジョニングあるいは追加できます。数千台のサーバーまで拡張可能なスケーラビリティを提供することで、高レベルのパフォーマンスやスループット、冗長性を確保し、フォールトトレランスと高可用性を実現可能です。
ハイパースケールデータセンターでは、サービス提供に必要な大量のIT機器を、消費電力を抑えながら、効率よく高密度でラックに実装できる電力設備・空調設備を備えています。このため、従来型のデータセンターと比べて、電力効率が大幅に向上します。2010年から2018年の8年間でデータセンター全体の処理容量は約6倍に増えているのに対し、消費電力の伸びは約194テラワットから約205テラワットとわずか6パーセントの増加にとどまっています。これにはハイパースケールデータセンターが大きく貢献しています。
全世界のデータセンターにおける電力消費量を調べたIEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)のデータを見ると、従来型のデータセンターを意味する「Traditional(従来型コロケーション)」が大幅に減り、「ハイパースケール(Hyperscale)」の比率が、2010年に比べて2018年に約3割伸びていることがわかります。少ない消費電力で多くの処理が可能なハイパースケールデータセンターが普及することで、データセンター全体の消費電力の増加が抑えられているのです。高い省エネ性能を持つハイパースケールデータセンターは、環境への負荷低減にも貢献していると言えます。
IT業界全体に大きな影響を与える巨大な存在に
大量のコンピューターリソースを利用するハイパースケーラーの登場によって、IT市場は急成長しています。ハイパースケーラーはパブリッククラウドサービスすべての約7割を管理しており、全世界のデータセンター関連機器の約3分の1を購入しているという統計もあります。それに伴い、業界全体に強い影響力を持つようになってきました。
例えば、ハイパースケールデータセンターでは何万台ものサーバーを高速で接続する必要があります。そのため、イーサネットコントローラーやスイッチ、光モジュールといったネットワーク分野で、より高速な通信が可能になるような新規格の策定や新製品の開発などに強い影響力をもっています。
ハイパースケーラーは、性能とコストの面で、半導体業界に大きな影響を与えています。半導体チップを大量に使う顧客企業としてはもちろん、半導体製造企業を買収して 自社が力を入れるソリューションのための独自半導体を設計・製造するようにもなってきています。例えば、AIのディープラーニングを処理するための専用チップとして、TPU(Tensor Processing Unit)を開発したGoogleが典型です。自分たちの要件を満たすチップが市販品で見つからない場合、ハイパースケーラーは自社で設計するようになってきています。