写真家・佐藤秀明氏が被災地へ向かったのは、すでに震災から2カ月が経とうとする2011年の5月だった。東京では夏日を記録する日もある時期だが、東北の風はまだいくらか冷たい。写真家は被災直後の混乱が収まったころを見計らって訪れたつもりであったが、現実の光景は厳しいものだった。
「現地へは車を走らせていった。被災地に近づくほど道路の傷みが酷くなっていくのが目につく。美しかった風景がすっかり荒れていて、酷いことが起きたのだと実感した。進入禁止のエリアがいくつもあった。福島は特に。5月になってもヘドロの匂いが鼻についた」
自家用車で夜を明かした佐藤氏だが、その日は過酷な現実を前に眠ることができなかったという。
母親の知人が住んでいたことから、石巻周辺は写真家にとって馴染み深い場所であった。美しかったころの景色を何枚も写真に収めていた。
震災の前にも後にも、写真家はこの地で大量の写真を撮影している。しかし、なぜだかデータがみつからない。新たな記録がみつかればModern Timesではこの「懐かしい場所」の景色を紹介していく。
(文:大川祥子)